[PR]

 マーシャル諸島で米国が繰り返した核実験で被曝(ひばく)したとして、周辺海域にいた漁船の元乗組員と遺族の計10人が26日、「労災申請」にあたる船員保険の適用を全国健康保険協会に申請した。元乗組員らはがんなどを患っており、被曝が疾病の原因と認められれば、治療費の自己負担分がなくなったり遺族年金が支給されたりする。

 10人は高知県内の元乗組員6人(81~88歳)と遺族4人。米国は1946~58年にマーシャル諸島のビキニ環礁とエニウェトク環礁で計67回の原水爆実験を繰り返していたが、元乗組員らは62年前の54年3~5月の6回の核実験時に周辺海域を航行。放射性物質に汚染された「死の灰」を浴びるなどし、がんや心筋梗塞(こうそく)を患ったと訴えている。

 同じ時期、周辺海域には延べ約1千隻が航行し、このうち約270隻が高知の船だったとされている。同年3月1日の水爆実験で静岡のマグロ漁船「第五福竜丸」(23人が被曝)が「死の灰」を浴びたことは分かっているが、日米の政治的幕引きを背景に公的な継続調査は打ち切られた。

 元乗組員らへの聞き取り調査を続けてきた「太平洋核被災支援センター」(事務局・高知県宿毛市)によると、今回申請した元乗組員6人のうち1人の歯を分析したところ、原爆が投下された広島の爆心地から1・6キロで被爆した人が浴びた量と同じ線量が確認された。他の元乗組員らについても白血球の減少を示す血液検査結果が残っているほか、漁船の航跡図からも周辺海域にいたことが裏付けられるという。

 一方で航行状況や被曝線量が特定されたとしても、放射線と病気との因果関係の特定には「62年」という歳月の壁が立ちはだかる。生活習慣を含め、被曝とは別の原因と判断される可能性もある。全国健康保険協会は取材に対し「国や専門家と相談して対応したい」としている。(西村奈緒美、佐藤達弥)

■「氷山の一角」

 「申請する10人は氷山の一角」と話していた太平洋核被災支援センターの山下正寿事務局長(71)。代理人として船員保険の申請書を提出した後に高知市で記者会見を開き、「やっとスタートライン。東北や東海で調査をしている人たちに情報を提供し、申請者を広げたい」と力を込めた。