阿部
「刑務所を出た後に、再び罪を犯してしまう『再犯』の問題です。
こちらをご覧下さい。
法務省が発表した犯罪白書によりますと、犯罪者の中に占める再犯者の割合は増え続け、平成25年は、過去最高の46.7%。
再犯者をどう減らしていくのか対策が急がれています。」
鈴木
「こうした中、民間企業の専門的な職業訓練を導入し、再犯防止を図ろうとする刑務所が山口県にあります。
中には、受刑者が刑務所に戻る割合が6%に抑えられている訓練があります。
一体どんな訓練をしているのか、取材しました。
阿部
「刑務所を出た後に、再び罪を犯してしまう『再犯』の問題です。
こちらをご覧下さい。
法務省が発表した犯罪白書によりますと、犯罪者の中に占める再犯者の割合は増え続け、平成25年は、過去最高の46.7%。
再犯者をどう減らしていくのか対策が急がれています。」
鈴木
「こうした中、民間企業の専門的な職業訓練を導入し、再犯防止を図ろうとする刑務所が山口県にあります。
中には、受刑者が刑務所に戻る割合が6%に抑えられている訓練があります。
一体どんな訓練をしているのか、取材しました。
山口県にある刑務所、美祢社会復帰促進センターです。
ここにいるのは、初めて刑務所に入るという人ばかり。
初犯のうちに一人一人を再生させ、社会復帰を促すことを目的とすることから、刑務所ではなく、社会復帰促進センターと名付けられています。
ここでは8年前、全国で初めて民間企業の職業訓練を導入し、システムエンジニアを養成する訓練などが行われています。
法務省が、これまでの職業訓練は必ずしも現代の産業ニーズに合っていないのではと考え、民間のノウハウ導入に踏み切りました。
指導にあたるのは、経営コンサルタントの矢島洋一(やじま・よういち)さんです。
民間企業で人材育成に携わってきました。
矢島さんは、受刑者と接するうちに、社会で求められる能力が欠けていると感じました。
経営コンサルタント 矢島洋一さん
「ほとんどの人はコミュニケーションを初めてここでとったとか、ちゃんと考えたとか、新聞を初めて読んだとか、勉強を初めてしたという人ばかり。
みんな欠けている人が多いので、そこを身につけることが絶対に必然。」
矢島さんの訓練では、ゲームアプリなど、コンピュータープログラムの開発に必要な技術を学びます。
受講しているのは、全国の刑務所から応募した人たち、およそ20人です。
8年間で95人が、この訓練を受けて出所しました。
矢島さんが訓練にITを選んだ理由は、企業の需要が高いこと。
受刑者
「こういう設計をしたいが、画面はこうでと。」
受刑者
「確認しあう。」
そして、システムエンジニアには、客とコミュ二ケーションをとることや、ほかの技術者と共同作業をすることから、受刑者に足りない能力も身につくと考えたからです。
訓練の時間が終わっても、受刑者たちは消灯時間の夜10時まで勉強を続けます。
訓練の参加には、学歴や年齢を問わない代わりに、刑務所を出るまでにエンジニアの国家資格をとることを求められるからです。
それが「情報処理技術者試験」。
一般の人でも合格率が2割という難関ですが、この訓練では6割を超える人が合格しました。
受刑者
「自信につながっている。」
受講する人には、与えられた課題から逃げないことを求めています。
罪を犯す人の多くは、まじめにこつこつと働くことから逃げてきたからです。
半年前から訓練を受けている、40代の田中さん(仮名)です。
違法カジノの運営に協力した罪で服役しています。
田中さんは大学を出た後、会社に就職せず、フリーターに。
次第にマージャンや、スロット、競輪に明け暮れるようになりました。
ギャンブル仲間が違法カジノを開いたとき、手伝うよう誘われた田中さん。
ためらうことはなかったといいます。
田中さん(仮名)
「こつこつやったほうがいいというのは分かっていたが、自分なりに楽な方に理由をつけていった。」
ITの訓練室に入ってからも、厳しい勉強から逃げようとする田中さん。
矢島さんからは、ゲームアプリを作り、みんなの前で発表するという課題が与えられていました。
ゲームは、江戸の街で火消しを使って火事を消すという設定です。
田中さんは、発表の前日になっても完成していませんでした。
進み具合を見に来た矢島さんに、田中さんは適当な説明でごまかそうとしました。
田中さん(仮名)
「(プレーヤーが)大岡越前にふんして、江戸の街を火事から守ったり、豊かにするためにいろいろな指示をして街を作っていくゲーム。」
経営コンサルタント 矢島洋一さん
「火消しじゃない。」
矢島さんは、田中さんのごまかしを許しませんでした。
経営コンサルタント 矢島洋一さん
「逃げたいか。
逃げたいんだよ、こうなったら。
終わりじゃない、あしたすんでも。
仕上げるつもりあるの?
どうするんだ。」
田中さん(仮名)
「やります。」
経営コンサルタント 矢島洋一さん
「その気持ちをあした話してくれ。
何でうまくできなかったか、これからどうしたらいいか、具体的に話してくれ。
それがお前の成果品だ。」
矢島さんの厳しい訓練を受けてきた受刑者の仲間が、田中さんにアドバイスしました。
一緒に訓練を受ける受刑者
「とにかくやるしかないのだから、やればいい。
“できなかった、すいません”だけでは発表にならないけれど、“これから作りあげるところまでいきたい”と、それなら発表になる可能性がある。
頑張りましょう、気持ちをのっけて。」
発表の当日。
田中さんは、逃げずに自分と向き合い、期日までに完成できなかったことを真摯(しんし)に謝ることにしました。
田中さん(仮名)
「課題に取り組んできましたが、最後まで完成に至りませんでした。
このような結果になってしまったこと、惨めで恥ずかしく、情けない気持ちでいっぱい。
でもこのまま逃げ出しては今までと何も変わらない。
できればもう一度チャンスをいただき、プログラムを学び直して、一からやり直したい。
このような報告をせざるを得なくなった事を本当に申し訳なく思います。」
美祢社会復帰促進センター長 小野和典さん
「とっても勇気のある発表だったと思う。」
物事から逃げずに向き合う力を身につけることが、再犯の防止につながると矢島さんは考えています。
経営コンサルタント 矢島洋一さん
「思考を途中で止めないつらさ、各自1回も経験したことがない。
考え続けることだけは残ってくれると思う。
しつこく諦めずに考え続ける、悪いことをしないことも成功する道のりも考えることが必要。
二度と刑務所に戻らないという意識が強くなると思う。」
矢島さんの訓練を受講して出所した95人のうち、再び刑務所に入った人の割合は6%。
美祢社会復帰促進センターでは、この数字をできる限りゼロに近づけたいとしています。
美祢社会復帰促進センター長 小野和典さん
「なぜまた(刑務所に)入ったか掘り下げてデータ化し、訓練にフィードバックするのが大事。
われわれとしては引き続きゼロを目指してやっていくべきだし、今やっている。」
鈴木
「政府は、再犯防止に向けた対策として職場と住まいの確保などを強化するとしています。」
阿部
「美祢社会復帰促進センターのほかに、民間企業が職業訓練に携わる刑務所は、全国でまだ6か所です。
訓練の成果についても、国は検証を始めたばかりで、再犯防止の効果を上げるには訓練に何が足りないのか、また、対象をどのように広げるのか検討が求められています。」