原題は『WORK LIKE A SPY』。元CIA諜報員J.C.カールソン著『CIA諜報員が駆使するテクニックはビジネスに応用できる』は、 佐藤優の帯に惹かれて読んだ。
CIAの検閲が入っているが、それは機密情報の漏洩を防止するためであり、本文の主旨には影響していないらしい。つまりストレートに彼女のスキルがつまっている。
佐藤さんが「日本語で読める最高の1冊だ」と賞賛するだけあって、かなり実用的な良書だ。
《目次》
「ヒュミント」(人的諜報)の解説本
帯だけでなく冒頭の紹介文を佐藤優が書いている。インテリジェンス(広義の諜報)の技法には4つの種類があるそうだ。
- ビジント(ビジュアル・インテリジェンス):人工衛星や無人偵察機による画像諜報
- シギント(シグナル・インテリジェンス):通信傍受による通信諜報
- オシント(オープン・ソース・インテリジェンス):新聞や雑誌、政府や研究機関などのサイトを分析する公開情報諜報
- ヒュミント(ヒューマン・インテリジェンス):人間を通じて情報を入手する人的諜報
このうち、本著ではインテリジェンスの王道「ヒュミント」のビジネスへの応用について掘り下げている。
問題解決のファーストステップ
協力者の候補を決めるというのは、すなわち自分の欲しい情報を手に入れられそうな人物を探すということである。誰に協力してもらえば、望みどおりの結果が得られそうかを見極める。誰がふさわしいかがわかれば、あとは、どうすればその人物に接触できるかを探すことになる。
CIA諜報員が身につけている基本テクニックのトップが「協力者の候補を決める」だ。
これを一番はじめに持ってきているところから、著者のメッセージを受け取ることができる。つまり、「自分1人で解決しようとしていないか?望みどおりの結果を得るために協力者を探すことが先決なのに」と警鐘を鳴らしているのである。
諜報員であれば相手国の情報を得なければならないため、協力者と接触するのは当たり前だ。ここでよく考えてみてほしい。
ビジネスでも、「社内の協力者、商談先での協力者の決定と接触」は当たり前のように一番はじめにやるべきことではないだろうか。1人でできることなど限られている。これを理解していない人は、どの分野でも大成しないものだ。
問題解決のファーストステップとして協力者を探すことに目を向けてほしい。そのあとの協力者の探し方についても本著では詳しく書かれているので、そこは手に取って読んでいただきたい。
「会いたい」と思わせる3つの理由
協力者を決めたら、接触すべき人間が「会いたい」と思うような人間になる必要がある。
「一度会ってみよう」と思うだけの理由
「人間関係を保とう」と思うだけの理由
「何度も繰り返し会おう」と思うだけの理由
この3つの理由を相手に感じさせなければならないと、カールソンは説く。相手に利益を与える、与え続けてくれそうな期待感を持たせることが重要だということだ。
理想はサイコパス
CIA諜報員には「裏の顔を隠し持ったボーイスカウトメンバー」という絶対的な矛盾を抱えた人材が適しているらしい。
とてもサイコパス的だ。
サイコパス的な行動は意識すればある程度できるものである。相手をよく観察し、優等生を演じれば良いのだ。演じるだけでなく、例えばCIA諜報員はむやみにウソをつかないという。誠実さを相手に印象づけるためだ。
他にも、本著には「自分から情報を与えて、相手の情報を聞きだす」など駆け引きのテクニックが書かれている。これについては、カードは最後まで出し切らないという前提が隠されている。当然だ。「私はスパイでこれを目的にあなたにコンタクトしています」というカードは、最後の最後まで隠し持つ。
カードを出し切ってしまったら、スパイであれば待ち受けているのは文字どおり「死」かもしれない。ビジネスでもこのような緊張感で会話に挑めば、自ずと目的達成の勝率は高まるだろう。
サイコパスを演じるつもりで協力者に接触し、相手の感情や動機を観察しながら、緊張感を持ってカードを出し合う。試しにやってみてほしい。