シャープ支援 揺れた1カ月 鴻海傘下入り決定

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機構案から形勢逆転 日本経済新聞  2016/02/26(金)

 シャープが経営再建の支援先として、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業と優先的に交渉すると発表したのが2月4日。シャープが産業革新機構案と鴻海案の間に身を置き、有利な条件を引き出そうと進めてきた交渉劇は25日の臨時取締役会までもつれ込んだ。総額6600億円規模の支援を計画する鴻海に成算はあるのか。

「条件が違いすぎた」

SHARPuyokyokusetu.jpg 「全会一致ということで鴻海に決めました」。25日午前10時すぎ、シャープの高橋興三社長は2時間を超えた臨時取締役会を締めくくり、支援者選びに区切りをつけた。


 「現時点でどちらと考えていますか」。2月4日、シャープの2015年4~12月期決算発表。東京都内で記者会見した高橋社長は鴻海案と産業革新機構案を比べる質問をこう受け流した。「そんなこと言ったら、交渉が終わってしまう」

 経営危機のシャープが「選べる立場」になったのは今年1月。シャープを起点に国内電機再編を目指す革新機構と液晶事業の買収を狙っていた鴻海が争う構図となった。


 当初の「本命」は革新機構だったが、1月末に形勢は逆転する。鴻海の郭台銘董事長が緊急来日、機構案を大幅に上回る6600億円規模の支援案を示し、シャープ役員の地位保全も表明した。


 機構案と違って、追加の金融支援も求められない鴻海案は銀行にとっても魅力的だった。「公平に両案を検討しなければ株主代表訴訟の対象になりかねない」。主取引銀行の一つであるみずほ銀行関係者はシャープの社外取締役にささやいた。「隠れ銀行管理」とされるシャープの経営で主力行の影響力は大きい。こうした援護射撃もあって4日、シャープの取締役会は鴻海を優先的に交渉する相手に選ぶ。「条件が違いすぎた」。革新機構の首脳は嘆いた。


 鴻海案では約5000億円がシャープの再建資金。一方、革新機構の出資金は3000億円、このうち1000億円は東芝の白物家電などの買収資金の位置づけだ。


「やはりあの時と同じだ」

 ただ、すんなりとはいかない。翌5日にまたもや状況が変わる。電光石火で来日し、シャープとの交渉に臨んだ鴻海の郭董事長の立ち居振る舞いが、取締役の「プロパー組」を震撼(しんかん)させたのだ。


 郭董事長は12年にシャープへの出資で交渉した際にも強引な物言いで不評を買った。今回も高橋社長に契約書へのサインを求め、握手の際に写真を撮って既成事実をしつらえようとした。「やはりあの時と同じだ」


 警戒感を強めつつ、旧正月明けの2月中旬に鴻海を訪ねたシャープの法務担当役員らは、あえて鴻海側に高めの球を投げた。信頼できる相手かを見極める狙いがあったが「シャープの要求をほぼ丸のみした」(主力行幹部)。契約を履行しなければ、1000億円の賠償金を支払うことさえ約束した。「念書を求めるような失礼なやりとりだった」(関係者)


 革新機構も動いた。「鴻海派」とされるシャープの優先株を持つファンドの役員が兼務している2人の社外取締役は「優先株が両案の対象であり特別利害関係者にあたる」と主張。鴻海を支持する主力行幹部も「機構案なら融資を引き揚げる」と漏らすなどつばぜり合いは激しさを増した。


 革新機構が頼りにする監督官庁の経済産業省は動きにくい立場にあった。現政権は外資の対日投資の促進を掲げている。鴻海が攻勢を強める中で革新機構を後押しすれば批判の的にされかねない。林幹雄経産相は23日、「国が後押しすることはない」と言い切った。


「ぎりぎりのタイミング」

 2つの候補の間を浮遊するシャープ取締役で唯一、立ち位置を明確にしなかったのが高橋社長だ。5日、郭董事長との交渉が終わると東京に飛び、革新機構幹部に「機構案の方がいい」と語ったという。両陣営に笑顔を見せ「同じようなことを言い続けた」(関係者)。


 シャープには時間の余裕もなかった。3月末には5000億円規模とされる金融機関の融資枠が返済期限を迎え「今回はぎりぎりのタイミングだった」(主力行幹部)。2月中の決着に至らないと、経営破綻もあり得る状況だった。


 シャープ株の25日終値は149円で、同社の時価総額は2500億円強。しかも、15年12月末時点で7500億円近い有利子負債を抱える。ある金融関係者は「最低額を提示し、高額取引に持ち込んだのは革新機構の功績」と指摘する。


 もっとも、両者を競わせたのは高橋社長だった。4日の記者会見ではこうも話した。「大阪人的に言うところの『(価格を)つり上げたろか』という意図はない」。とはいえ、曖昧な姿勢は両陣営の熱気を誘い、未曽有の激戦を演出した。


 ただ鴻海との交渉はこれで終わりではない。25日夕、鴻海は「シャープが24日朝に出した重要文書について精査する必要があり、取締役会前に契約の延期を申し出た」と発表した。約3500億円に達する財務リスクの関連情報を指すが、あるシャープ関係者は「知っていたはず」と漏らす。


 二転三転してきた鴻海との提携関係。一筋縄でいかない相手であることはシャープが一番よく知っている。




鴻海、狙いは技術力 液晶・有機EL 韓国勢を追う

【台北=山下和成】電子機器の受託製造サービス(EMS)で急成長した台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業は、シャープ買収をテコに液晶や有機ELパネルといった分野でも世界的な競争を勝ち抜く体制づくりを急ぐ。シャープの技術力を使って高品質のパネルを量産し、先行するサムスン電子など韓国勢を追撃する。

honhaizigyoutenkai.jpg 「『鴻夏恋(鴻海とシャープの恋)』が実った」。台湾の中央通信など主要メディアは25日、シャープの買収提案受け入れを一斉に報じた。

 鴻海はスマートフォン(スマホ)など最終製品の組み立てだけでなく、部品なども含めて幅広く需要を取り込む「垂直統合型」の経営を推進している。液晶パネルでは傘下に台湾大手の群創光電(イノラックス)を抱える。しかし技術力に劣り、スマホ用では需要開拓が遅れている。


 郭台銘董事長は「シャープの技術は素晴らしい」と強調し続けてきた。シャープの液晶技術と鴻海の低コスト生産のノウハウを組み合わせれば、高品質のパネルを割安で供給できるとにらむ。パネルはスマホ部品のなかでも価格が高く、アップルの「iPhone」や中国・小米(シャオミ)のスマホに供給できれば収益拡大が見込める。


 鴻海は主力の生産拠点の中国の人件費上昇などを受けて利益率の低下が目立つ。主力のEMS事業以外にも、通信や自動車部品などに事業領域を広げている。


 シャープが持つセンサー技術などは鴻海が目指す自動車関連事業の拡大や工場の生産自動化につながる見通し。シャープの空気清浄機は中国でブランド力が高く、鴻海関係者は「(鴻海が提携する)アリババ集団のネットを通じて販売できる」と語る。


 鴻海の2015年12月期の連結売上高は前の期比6%増の4兆4830億台湾ドル(約14兆8000億円)。郭氏は「今後は10兆台湾ドルの売上高を目指す」と豪語しており、シャープ買収をその起爆剤にしたい考えだ。


 シャープは鴻海から受け取る資金のうち、1000億円を既存の液晶事業に投じるほか、2000億円を新規事業の有機ELに振り向ける。

 17年中に亀山工場(三重県亀山市)内に有機ELパネルの研究開発ラインを整備し、19年までにスマホ向けパネルで月産1000万枚の生産能力に引き上げる。シャープが持つ省エネ性能に優れた「IGZO(イグゾー)」技術を有機ELパネルにも応用し、高機能のスマホやタブレット端末向けに展開する計画だ。



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