「サイクス・ピコ協定」が生んだ中東の混乱
イラクのサダム・フセイン大統領がまだ生きていたころ、彼が少数民族クルド人の集落を爆撃したり、化学兵器で攻撃したりしてしているというニュースがドイツでよく流れた。
報道内容の信憑性はともかく、クルド人とイラク政府との確執が深いことは確かだ。当然のことながら、戦闘の歴史も長い。しかし、しょっちゅう殺戮が行われているにしては、クルド人が絶滅しそうだという話は聞かず、ふと、クルド人というのは実はたくさんいるのではないかと思ったことを覚えている。
後で知ったところによると、本当にクルド族は少数民族ではなかった。その数、2500万から3000万人だそうだ。台湾やオーストラリアの人口より多い。スイスやイスラエルに比べると3倍以上にもなる。そして、現在、最高にこんがらがっているシリア内戦の鍵を握っているのが、実はそのクルド人なのである。
もともとクルド人は、クルディスタンにいた。文字通り「クルド人の国」という意味だそうだ。場所は、現在のトルコ、イラク、イラン、シリア、アルメニアに跨がる地域だが、当時はすべてオスマン帝国の領地だった。つまりクルディスタンは、巨大なオスマン帝国の中にすっぽり収まっていたのである。
しかし、1916年、イギリスとフランスは、「サイクス・ピコ協定」という秘密協定を結んで、中東の分割を画策した。もちろん、植民地支配圏と、石油利権の温存のためだ。
第一次世界大戦でボロボロになったオスマン帝国は、そのまま衰退し、そのあとにトルコ共和国ができる。そして、英仏のシナリオ通り、往年のオスマン帝国は分割され、次々にレバノン、シリア、イラク、クウェートなどが出来て、英仏の管理下に入った。同時にクルド人の国も、トルコ、イラク、イラン、シリア、アルメニアの5ヵ国に引き裂かれ、今に至っている。
無理やり分割された中東は、そのあとにさまざまな問題を残す。なかでも一番大きなものが、パレスチナ問題とクルド問題だ。以来、パレスチナ人とクルド人は、ずっと自治・独立のために戦い続けてきた。
ただ、日本では、パレスチナについて知っている人はいても、クルドのことはほとんど知られていない。
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