Interview with Hirofumi Kurino of UNITED ARROWS LTD. on JFW & Japanese fashion: part 3

PORTRAITS | Mar 25, 2013 8:00 AM
日本のファッション界最重要人物のひとり、栗野宏文氏。日本を代表するファッション小売業 ㈱ UNITED ARROWS (以下: ㈱ UA) のクリエイティブディレクション担当上級顧問であり、日本のファッション業界をドメスティックとインターナショナルな視点から俯瞰的に語ることができる数少ないファッション・ジャーナリストでもある。業界歴35年というキャリアもさることながら、政治経済・音楽・映画・アートから国内外情勢を投影した時代の潮流(ソーシャルストリーム)を捉えるマーケターとしても、国内外で高く評価されている。栗野氏にとって、ファッション業界の過去・現在・未来とは?

取材・文: 編集部  ポートレート写真: 三宅英正

日本のファッション界最重要人物のひとり、栗野宏文氏。日本を代表するファッション小売業 ㈱ UNITED ARROWS (以下: ㈱ UA) のクリエイティブディレクション担当上級顧問であり、日本のファッション業界をドメスティックとインターナショナルな視点から俯瞰的に語ることができる数少ないファッション・ジャーナリストでもある。業界歴35年というキャリアもさることながら、政治経済・音楽・映画・アートから国内外情勢を投影した時代の潮流(ソーシャルストリーム)を捉えるマーケターとしても、国内外で高く評価されている。栗野氏にとって、ファッション業界の過去・現在・未来とは?

 (第1回/全4回) 【インタビュー】(株) ユナイテッドアローズのクリエイティブディレクション担当上級顧問 栗野宏文氏が語る、ディレクションや流行予測のエッセンス

 (第2回/全4回) 【インタビュー】(株) ユナイテッドアローズのクリエイティブディレクション担当上級顧問 栗野宏文氏が語る、日本のアパレル市場とアントワープ王立芸術アカデミー

 (第4回/全4回)【インタビュー】(株) ユナイテッドアローズのクリエイティブディレクション担当上級顧問 栗野宏文氏が語る、いま気になるブランドと海外で勝負をする際の注意点

– 日本のいまと昔のファッション業界を比べると、大きな違いはありますか?

いまと昔は変わっているように見えて、実は大きく変わっていないとおもいます。強いて言えば80年代というのは、いわゆる“マンションメーカー”といわれる小さいマンションの一室でブランドを作るような人が次から次へと出てきて、中には大成功した会社もあります。単純に人の力ではなく、時代的に80年代の方がデビューしやすかったのではないかという気もしますが、いまでも高円寺のキタコレビルや原宿の Dog (ドッグ) などのように新しいことをやっている人はいるので、いまの方が明日から突然なにかをはじめるというときには良いのかも知れません。昔よりやりやすくなったのか、昔よりやりにくくなったのか、簡単には言えないです。ただ、インターネットも発達して、お友達を作りやすい時代なので、メジャーにデビューをしなくても、お友達の間である程度自分の立ち位置を作れる時代になったのだろうなと、高円寺などを見ていておもいました。

Kita-Kore Building

Kita-Kore Building

– Japan Fashion Week (以下: JFW) はこれからどうなっていくのでしょうか?

数年前に民主党政権になり、仕分けのさいに、それまであった JFW へのサポート金が減りました。そのサポートもなくなり、おそらくいまはまったく資金がありません。いまはMercedes-Benz (メルセデスベンツ) がスポンサーについたので、Mercedes-Benz Fashion Week (メルセデスベンツ・ファッションウィーク) という形になり、あとは日本貿易振興機構の JETRO (ジェトロ) や経済産業省がサポートして場所は貸しましょうとか、優秀なデザイナーは海外に売り込みましょうというような動きをしています。しかし国からのサポートがほぼ期待できない形の中で、別に Comme des Garçons (コム デ ギャルソン) や Yoji Yamamoto (ヨウジ ヤマモト)、ISSEY MIYAKE (イッセイ ミヤケ) が出るわけでもなく、UNDERCOVER (アンダーカバー) もでない。そこのネガティブな要素だけ見ればやる意味はないですよね。

ところが、東京のファッションはそれでもおもしろいじゃないですか。街もおもしろい。私は3、4年前から JFW のコミッティの委員を務めているのですが、せっかくやるのだったらビックネームに頼らず、若い人たちを中心に、おもしろくイキの良いことをやろうと言い続けていました。JFW はここ2年くらい、とくに前回くらいから良くなってきていて、次の3月は期待できるとおもいます。今度 GANRYU (ガンリュウ) も出ますしね。だから、例えばアメリカ、フランス、イギリスやイタリアにいないタイプのデザイナーを探す場合、やはり東京のストリートがおもしろい。東京の息吹を感じさせてくれるような VERSUS TOKYO (バーサス・トウキョウ) に参加する C.E (シー イー) や GANRYU。そういうものが JFW の中で紹介されていくのであれば、海外からも人がくる価値がある。

そして日本はインテリアデザインもすごく良いので、インテリアのフェスティバルと組み、アニメーションやマンガなど、日本の一部インディペンデントなところともコラボレートして、総合的なクリエイティビティをキーワードにしたカルチャー発信をしていけば生き残れるとおもいます。ただパリ、ミラノ、ロンドンのような大きなファッション・ウィークを期待すること自体が間違いだし、大きいか小さいかではなくて、いかにおもしろいかというのをもっと押し出すべきなんです。

 

– よく海外に輸出される日本のファッションがカワイイ系だったり、109系ギャルモードだったりしますが、そのカルチャーについてはどのように感じていますか?

おもしろいとおもいます。ただ、なぜそういうものが生まれてきたのかとか、それはワールドマーケットの中でどういう意味をもっているのかなどをきちんと定義してあげたり、解説してあげたりする人がいないと、海外に盗まれて終わってしまいますよね。日本のファッションの最大の特徴は、階級がないということと、性がないということ。だから、別に今日スーツを着ていても、明日はヒップホップでも良いし、週末は Comme des Garçons や Vivienne Westwood (ヴィヴィアン・ウエストウッド) を着ていても良い。日曜日はサーファーでも大丈夫。

これは欧米では考えられないことです。欧米では、スーツを着るということは、スーツを着るような仕事をしているということを意味します。ファッションはメッセージ。そしてパーソナルなメッセージではなく、自分と社会を結ぶアイコンとしての要素が強い。もうひとつは、自分が服を着ることによって、例えば女の人を口説きたいとか、男の人を口説きたいとか、服によってモテたいというのが欧米では大前提なんです。しかし日本だと服は趣味の部類に入ってしまう。まったくモテなくて構わない。非モテ系の服がこれだけもてはやされている国は日本だけだとおもいます。

それでは109のギャル系はどうなのか。あれはコスプレですよね。一応見た目は肌を露出していたり、スカートがすごく短かったりするけれど、あれを見て欲望を覚える人はあまりいないのでは?秋葉原のコスプレとあまり変わらないとおもいます。だから秋葉系の子たちと、ガングロ系の子たちは一時、すごく近い立ち位置にいました。あのような服装は一種のコスプレなんだろうなと私はとらえています。だからファションも知的なゲームとして遊べるのであれば、日本のユースカルチャーやユースファッションも、他の国にもって行ってもおもしろいはずです。

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栗野宏文 (くりの ひろふみ)
株式会社ユナイテッドアローズ
クリエイティブディレクション担当 上級顧問

1953年生まれ。主に東京・世田谷で育つ。中学・高校時代は音楽やイラストレーションに熱中。1977年からファッション業界に身をおく。

株式会社ユナイテッドアローズでは、長年にわたりバイヤーやブランドディレクターを担うと同時に、社会潮流を読みディレクションを発信する全社のクリエイティブディレクション担当上級顧問を務める。政治経済・音楽・映画・アートから国内外情勢を投影した時代の潮流(ソーシャルストリーム)を捉えるマーケターとして、またそこからファッションを読むファッションジャーナリストとして数々の連載寄稿・取材や講演を行なう。

国内外におけるファッション文化貢献活動にも参画。Royal Academy of Fine Arts Antwerp (アントワープ王立芸術アカデミー) では度々卒業ショーの審査員も務める。2004年には、英王立芸術大学院「Royal College of Art」からHonorary Fellowship(名誉研究員)を授与。現在日本ファッション・ウィーク推進機構 コレクション事業委員会 委員として東京コレクションの開催運営に関するアドバイザーや、国際的な服地見本市のプルミエール・ヴィジョン(PV)が2009年9月展から新設した、出展社の最新生地を対にした「PVアワード」の初代審査委員メンバーに就く。

UNITED ARROWS LTD.
URL: http://www.united-arrows.co.jp

 

 

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