誓いの桜(2月23日)
東京電力福島第一原発は約350万平方メートルの広大な敷地にある。東京ドーム75個分に相当する。原発事故前は、その約6割が緑地だった。今では多くの樹木が切り倒され、タンク群やがれき置き場などに姿を変えている。
かつて土手の斜面を彩っていたツツジも伐採された。「フェーシング」と呼ばれる舗装作業のためだ。地下に雨水が染み込むのを防ぐため、土の表面にモルタルを吹き付ける。一面、灰色に染まり、日に日に構内から色彩が失われていく。「事故前と比べ、緑地は半分以下になっているはず」。東電関係者は話す。
桜並木だけは残した。構内への入り口付近から北に約500メートルにわたって連なる。事故前は春になると、「お花見バスツアー」を催していた。地元の大熊、双葉両町の住民を招き、構内を巡った。社員にとっても思い出が詰まっている。「満開の桜の下で食事を楽しむ参加者の笑顔が思い出される」。当時を知る面々は口をそろえる。
桜を切らなかったのは、今も避難生活が続く住民のことを忘れないためだ。現場の責任者が決めたという。あの日の光景を胸に、一日も早い廃炉を成し遂げる-。「本当の春」の訪れを桜に誓う。
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