「そのときが来たら」
-じつは昨年、ベイラー選手にもインタビューさせてもらったんですが。
はいはい。
-WWEで成功しそうな日本人選手を聞いたところ、真っ先に中邑選手の名前を挙げてらっしゃいました。こういった話は普段からベイラー選手とするのですか?
いや!くだらない話はしょっちゅうしてますけど。そういう話は本人の目の前では言わないでしょ!ハハハハ! まあでも友人として「こっちに興味はないのか?」って話はしょっちゅう来てましたけどね。
-なんと答えたのですか?
「そのときが来たら、こっちから行くよ」とは言っておきました。
-ちなみに、普段ベイラー選手のことは何と呼んでいるのですか?
本名です。ファーガル。
-今回もフロリダで会われたんですよね。
そうですね。メンフィスで怪我したらしくて帰ってきてました。で、ちょうどスーパーボウルがありまして。ほら、マット・ブルームは元NFL選手だったくらいで、アメフトの大ファンじゃないですか。それで「家で一緒にスーパーボウル見よう!」と誘われたんですけど、アメフトのルール知らないし…。「う、う~ん…」って断って。同じくアメリカにいるアメフトに興味無い外人たちで集まって、ファーガルの家でまったりしてました。ハハハ。
-楽しそうです。ベイラー選手とはどんな話を?
生活の話とか。今僕は結構いろいろ質問があるんで。「ここどうなってるの?」とか。「こういうときはどうしたらいいの?」とか。それこそ「おいしいコーヒー屋さんどこにあるの?」みたいなことも。
-プロレスのお話はどうです?
試合に関しては出たとこ勝負なので。どこでやったとしても、フィーリングでやる部分が非常に大きいので。彼からいっぱいアドバイスはもらえますけど、まあ、「もうちょっと待って」と。
-フィーリングと仰いましたが、中邑選手は試合前に計画するよりは、リング上の感覚で試合を組み立てていくのですか?
いや!もちろん対戦相手のことはよく知らなきゃいけないし。相手が何をしたいのか、何を見せたいのかっていうものを自分の中で把握しつつ、自分自身のものと掛け合わせて、かつ、その時のライブとしての会場の雰囲気を総合して、一番面白くなるだろうっていう方法を模索します。
もちろんリング上でも、その切り替えがあります。Aプランで行こうと思ってたのを、Bプランにしようとか。AもBもダメだから、勝手にCプランを作ってしまおうとか。そういうかんじですね。
-そういう切り替えみたいなことは、相手の選手もわかるものなのですか?
んー、なんて言うのかな。プロレス用語では「引っぱる」という形になるんですが。プロレスってある種、言葉以上のコミュニケーションだと思うんですね。ほぼ裸で、肉体がぶつかり合って。言葉によるコミュニケーション以上のものがお互いに伝わっていると思う。「喧嘩したあと仲良くなる」みたいなことを日常茶飯事でやってるから、お互いにフィットしなきゃいけない。で、あえてフィットさせない時もある。これはもう、状況によって変えてます。
-フィットさせない?
その試合に求められるのが、そういうスムーズなものではなくて、ギクシャクしたものだった時とか。そういう時は、あえて相手がフィットさせようとしてきたところをシャットダウンしたりとか、はね返したりとか。
-おお、興味深いです。
まあでもそういう方程式的、レシピ的なものは人によって違うと思うね。どういう言葉を使ってそれを表現するかも違うだろうし。たまーに、初めてやった相手とものすごく手が合う、スイングする、とかそういうことがあるんですけど、それはやっぱりフィーリングとか、お互いにテンションを近づけることができたか、もしくは元々近かった、っていうのがあるんだろうなと思います。
-そういうプロレスラーの思考回路は、例えばプロレスゲームのAIには難しいことですね。
「これやったあと、あなたならどうする?」っていうところですよね。次にフィニッシュ狙わなきゃいけない状況で、いきなり逆水平かましたらガクッってなりますよね! そういうロジックを作るのは難しいでしょう。逆に面白いなと思って、よくゲームでコンピュータ同士に闘わせてずっと見てました。
「ブライアンひどいんですよ」
-さて、ダニエル・ブライアン選手にも昨年インタビューしたのですが。
おっ、ブライアン。
-「レッスルマニアでICベルトを取ったら、中邑真輔がやったみたいに主力ベルトを食いたい」と仰ってました。ブライアン選手とそういう話をしたことがあるのですか?
いや!まったく知らなかったです。ブライアンひどいんですよ!会ったときは昔話とかもするのに、SNSで連絡とっても返してこない!「おまえ変わったな…」みたいな!ハハハハ! メールも昔のアドレスだから変わってんのかな? SNSは探すのも苦労しましたよ、ニセモノがいっぱいで。こんど会ったらコノヤロウ!って言っとかないと。
-そういえば、中邑選手がWWEで見たことがある試合は、ブライアン選手が戴冠した祭典くらいだとか。見てどうでした?
いや、すっげえな…!登りつめたな!っていうのがありましたね。レッスルマニアのメインでしょ?あれ。みんなYES!やるわけじゃないですか。
-すごい盛り上がりでした。
当時、2003年くらいかな? ブライアンと僕とリョート・マチダで同じアパートに住んでたんです。で、僕もリョートも全然英語しゃべれなくて、お互い「お前の英語のほうが下手だ」と罵り合ってたらブライアンが「二人とも最低だ」と。
-はははは!
で、ブライアンはすげー真面目だったんです。「飲みに行こうぜ」って言っても「俺酒飲まない」って言ってレモネードばっか飲んでる。コーヒー行こうぜって言っても「コーヒーにはカフェインが…」って。真面目だな!と。まあでも、そんなに長い期間じゃなかったですけど、一緒にいた彼らが大成功を収めてるっていうこと。リョートがUFCチャンピオンになって、ブライアンがレッスルマニアのメインでチャンピオンになって。やっぱりすごく感化されます。べつに自分の置かれている状況がそうでもないということではないんですけど「よりもっと」っていう意味でね。あと、やっぱりブライアンが「中邑とやりたい」って言ってくれたことにはものすごく刺激を受けて。自分が見てた世界をより広くしてくれたっていう。
WWEに所属してなくたって世界中で闘うことはできるんですけども。実際そうやってきましたけども。でも「WWEで見れる世界は見てないじゃないか」って。ここでまた新たな挑戦だったり、見たことない世界が見れるチャンスがあるのではないかと。いや絶対あると。非常に大きな決断だったんですけど。長年、所属した新日本から離れるということは。でもこれも必然だろうなと。
-WWEで見れる世界とはどんなものでしょう?
世界一大きな組織の中がどうなってるのか、っていうのを内側から見たいというのもあったし。世界中で放送されてるっていうところで、自分がやったことの影響力がどこまで波及するんだろう?と。そこは味わってみたいですかねえ。ほんと、WWEをずっと追って見てたわけでもないし、他の選手がレッスルマニアを観にいくんだと言ってても全く興味が無かった。日本公演にも1回も顔を出したことがなかったし。なのにこうなるなんて。ああ、人生って面白いな、と思います。
-本当にWWEを見てなかったんですね。中邑選手は「プロレス自体からインスパイアされたくない」と仰ってましたし。
逆にいっぱいパクられてるのも知ってますけど。動きにしろ所作にしろ技にしろ。でも、自分はそれらの「意味づけ」を強くしてきましたから。パクったつもりでパクれてないよ、とも思ってます。また新しいものを作ればいいやっていう考えもあるし。これはAJも言ってたな。俺の技パクってる奴すげーいっぱいいるけどって。でもAJ大丈夫だからって言って。誰のオリジナルか、知ってる人は知ってるし。
-知らなくてもわかるものかもしれませんね。さて、ブライアン選手の引退には驚きました。
いやもう…、ほんとショックでしたね。WWEに行く目的のひとつだったのになんだよ…!って思って。でもまあ…、ブライアンと久しぶりにメシでも食いてえなって気持ちになりました。「何してたの?お前は」って。「どんな生活を楽しんできたのかな」っていうところを話しつつ…、「マネージャーやってくんねえ?」って。ハハハハ!
-それはすごい!そんなことになったらうれしいです。ブライアン選手の引退で、ご自身の体のことも考えたりしましたか?
ああ…、そうですね。WWEの選手、すごいケガが多いと思っているんですよ。リングの形状は、日本より若干広い。日本のような、リング下に支柱があるタイプではない。バウンドはするんで、それによって衝撃を散らしてるのはわかるんですけど。にしてもケガが多い。ひとつ言えるのはスケジュール。移動からすぐ試合とかの影響があるのかなと思うんですけど。
自分は13年…14年間? 自分のキャリア年数もよく憶えてないくらいですけど、そんな中でも比較的大きなケガは少ないほうだったんですね。手術の経験もないし。あとは今のスタイルが、自分の体の質に合ったものだと思っているので。常にケガには気をつけつつ、環境に慣れるしかないかなと。それはいつも、心しておかなきゃいけないものだなと思いますね。ブライアンはすごく脳震盪多かったみたいですけど。誰しも10年やってると1回か2回はね、起こり得ることなんですけど。ブライアンはもっと多かったんですね。そこは本当に「いつも死と隣り合わせ」っていう気持ちは、僕はプロレスに対して持ってますから。もともと格闘技やってた選手は、とくにそれが強いんじゃないかなと思います。
-なるほど。ちなみに、リング下の支柱があるとないで、すごく違うものなのですか?
違いますね。日本の場合は支柱があるリングが多いから、マットの表面にはクッションを使うんですよ。アメリカのはバウンドするから表面は薄いんじゃないかな。メキシコのリングに比べたらいいですけど。
-メキシコ固いんですか?
メキシコは固いです。支柱もあって表面も固い。ボクシングと同じようなリングですから。だからメキシコの場合はバンプも変わってくるんです。大きくドカーンていうバンプはとらないで、極力体を痛めつけないようにローリングしながら受けるんです。空中戦でもそうですね。相手を回して投げる技が多いっていうのはそのためだろうなって思いますね。
-世界のプロレスの違いは興味深いです。観客の違いはどうでしょう?
ありますね。「観客の平均値で見ると」っていうことですけど。日本のお客さんは学ぼうとする姿勢が強いから、腕組んでじっと試合を見つめるお客さんも多いし。アメリカだとか欧米の多くでは、やっぱりライブを楽しんで、その瞬間を自分も一緒になって盛り上げようってお客さんが多かったり。でも別に、アメリカがそういうお客さんばっかりってわけでもないんですね。ネットでチャントを予習してきて、誰も知らないだろうっていう日本のプロレスだったりマニアックなプロレスを調べ上げて、そこに優越感っていうお客さんもいるし。
もうWWEネットワークがあれば、ライブでやっててもそこだけじゃなく世界中でやってることになるじゃないですか。だからそこで、どうすれば見てる人間に伝わるかいうことですね。それはもう、それこそ掘り下げたら人類というくくりで、人種や文化を超えて伝えるにはどうしたらいいかっていうことですよね。
-ディズニーとかがやっている域ですね。
そうですよ! プロレスっていう文化が、こうまで強く世界中に進出できるんだと。人類のどの文明にも、音楽・踊り・相撲って文化は絶対あるんですね。そういうところで本能的に求めるものなんじゃないかなと思うんです。
「ありのままの中邑真輔」
-中邑選手はプロレスを「即興の芸術」だとも仰ってました。
芸術ってなんだろうって考えたとき、「一般的なコミュニケーションを超えて訴えかけるもの」じゃないかなと思うんです。言葉とかじゃない何かで伝えることが芸術なんじゃないかなと。だからプロレスの場合は、闘う姿勢だったりによってお客さんに伝えるわけです。言葉にならない気持ちですらも。
-WWEで試したいことがいっぱいありそうですね!
そうですね。とりあえず今は何も無いから、中邑真輔を出すしかないですよね!ハハハハ! WWEで試合をするうちに新しく生まれるものもあるだろうし、現時点ではありのままの中邑真輔でいいんじゃないかなと思いますね。
-トリプルHからも「好きなようにやってほしい」と言われたとか。
「アイデアがあったらバンバン言ってくれ」と。あと「お前のカミさんの仕事だって斡旋してやる」とも言ってくれましたね。「サーフィンする時間がほしい」って言ったらさすがに怒られるかな…?ハハハハ!
-今回のフロリダでは、他に誰と話しましたか?
マット・ブルームとは、もう家族付き合いしてますから。ただ、パフォーマンスセンターのトップですから、言えること言えないことっていうのはあるでしょう。NXTにはクラスがあるんですよ。ビギナー、中級、上級みたいな。で「おまえ上級だから」って言われました。いや10年戦士つかまえてなんだよ!って。ハハハハ! ということで、WWE一歩手前のクラスからスタートですね。
-なるほど。
AJには今回会ってないです。アスカ選手とは挨拶だけ。ヒデオ選手とは2回メシに行きました。
-おお、どこに行ったんですか?
「何食いたい?」って聞かれたから「ベトナム料理食べたい」と行ってきました。アメリカにはベトナム料理多いんだけど食べたことなかったんで。ヒデオ選手とは、日本でも1回試合で絡んだだけだったんで、とりあえずコミュニケーションとってみたいなと。どんなやつなんだろうと。
-どんな方でしたか?
真面目な人なんだなと。僕みたいに、適当なちゃらんぽらんなのは軽蔑されそうだなと!ハハハハハ! いや真面目ですよ。ストイックですね。まあでも、仲良くなれるんじゃないかな。僕が軽蔑さえされなければ!ハハハ! 先輩として、頼りにしてますけどね。試合の話、生活の話、あとラーメン屋さんの話をしました。でもほんと、プロレスにすごくストイックだなと思いました。軽蔑されないようにがんばろう!
-興味深いです。さて、時間切れのようなので最後の質問です。日本のファンの中には、中邑選手が新しい挑戦をしに行くのだと頭ではわかっていても、感情としては「日本の会場で見れなくなるのは寂しい」と思っている方も多いと思います。日本のファンになんと伝えたいですか?
また、新しい一面が見れるかもしれないことを楽しみにしてほしいということ。あと、もうすでに中邑真輔を知っているという意味で、世界中のファンに対して「昔から知ってる」と、中邑真輔マニア的に先輩面していいんじゃないかと思います!
-自信を持って先輩面します! 本日は、ありがとうございました!
※関連記事
フィン・ベイラー選手WM31直前インタビュー
ダニエル・ブライアン選手WM31直前インタビュー