映画「オデッセイ」(The Martian)の参考  宇宙船ヘルメスの足取りと有人火星探査の実際

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【元記事】映画「オデッセイ」(The Martian)参考 ワトニーの足取りと火星の自然の実際
http://masamich.at.webry.info/201602/article_1.html


■地球への帰還と再度の火星飛行

(1)
作中の運航軌道を解説したページ「Inside The Spaceflight Of 'The Martian'」
https://t.co/Cm5WOs1Onj

下の図は、同ページに掲載されているもので、アレス3クルーの地球出発から火星でのミッション中止に伴う地球への帰還、「リッチ・パーネル・マヌーバ」を経てワトニーの待つ火星へ、そして再度地球へ向かう、一連の経路がプロットされている。

軌道は原作のそのままの軌道ではなく、作中の日数にあわせて新たに計算された軌道とのこと。
記事では、この軌道図をもとに、軌道が金星の内側まではいることによる放射線被ばくの危険性や、この軌道を実現するために必要なデルタV(加速度)、それを得るためにどんな推進機関が必要か、またそれを駆動するための電源の問題などについて議論されている。



(2)
原作者アンディ・ウィアーのサイトの「The Martian」のページ。(2016.2.14追記)
http://www.galactanet.com/martian/
原作での軌道運動を解説した動画がある。ウィアーは自作のソフトで原作中の軌道を設定したらしい。同じディレクトリにヘルメスの軌道をエディットできるアプリケーションが掲載されている。

 原作の軌道は、(1)の軌道とはかなり異なる。特にワトニー救出後、いったん火星軌道の外へ飛び出してから急減速をかけて地球に向かって落ちていく。これは強力なイオン推進エンジンによる長時間の加速を前提としているためだと思われる。現在のほとんどの宇宙船は、軌道変更のほんの数分から数十分を除けば惰性で飛んでおり、その軌道はきれいな楕円弧となるが、これとは対照的である。



(3)
軌道についての論文2編。図もある。

「Fast Mars Free-Returns via Venus Gravity Assist」
https://t.co/7h2sRoKclI

「Mars Free Returns via Gravity Assist from Venus」
https://t.co/GfxtOxG924

長期滞在パターン。発進から帰還まで2年半。少ない燃料で往復できる代わりに地球に帰還可能になるまで火星で1年半すごす。「オデッセイ」でも、これが基本となっているはず。


短期滞在パターン。同1年8か月。金星経由で1年かけて火星に行き、3か月の滞在後、地球に帰還する。劇中で火星からの最初の帰途はこれに近いパターンか。



■有人火星探査の実際

(1)
帰還船を送り込んでおくプランはロバート・ズブリンの「マーズ・ダイレクト」が発祥。最初に帰還船を火星に送り込む。以後、火星との会合周期である約2年おきに、着陸クルーと、次の帰還船を送り込むサイクル。次の帰還船が、バックアップにもなっている。https://t.co/UCFKkQRdbK





マーズ・ダイレクトでは、火星着陸後に滞在基地にもなる着陸船と、火星から上昇してそのまま地球に戻る帰還船の二種類しか使わない。先行して送り込まれる帰還船は、火星到着後、持参した水素と大気中の二酸化炭素から帰りの燃料を製造する。この、燃料を現地調達することにより積み荷とコストを最小限にするのがマーズ・ダイレクト方式の最大の特徴。

劇中と違い、「マーズ・ダイレクト」では帰還船は、比較的近距離に順次送り込まれる。これなら、ワトニーのように帰還船まで火星を半周する必要はなさそう。

(2)
「マーズ・ダイレクト」に基づいた火星探査構想の動画
https://t.co/3QhJmEFsbz

(3)
NASAの”Mars Design Reference Architecture 5.0”
http://www.nasa.gov/centers/johnson/exploration/graphics_marsbriefing_112311.html


マーズ・ダイレクトを少しアレンジし、地球帰還船を火星地表からの上昇ロケット(MAV )と火星から地球までの飛行を担う部分にわけ、前者だけを先行して火星に送り込んでおくのが「セミ・ダイレクト」方式。現在の火星有人探査構想はこれがベースとなっており、映画「オデッセイ」およびその原作「火星の人」のミッションもこれをモデルにしているようだ。

この方式では、最初の打ち上げで、MAVを火星の地表に、「居住・着陸船」を火星を周回する軌道に送り込んでおく。MAVは現地で燃料の製造を開始する。

その後、クルーと地球火星往還船が打ち上げられ火星に向かう。往還船は火星高軌道にとどまり、クルーはオリオン宇宙船で着陸船に乗り移り、降下する。

帰りはMAVで上昇して往還船にドッキングし、地球近傍まで飛行、クルーはオリオン宇宙船で直接地球大気に突入し帰還する。

往還船は作中のように何度も繰り返して使用するわけではないようだ。

※着陸船を火星の軌道に乗せるために、「エアロキャプチャ」を用いるのが特徴。これは、逆噴射をするかわりに火星の大気上層をかすめてブレーキをかける方法。
 大気ブレーキ自体は近年の火星周回探査機の軌道修正に活用されているが、軌道投入そのものに使われた例はない。ちなみに、クラークの小説「2010年宇宙の旅」では、米ソ協同探査隊と中国隊が木星周回軌道に投入するために、それぞれ木星大気でのエアロキャプチャを行っている。また、テレビドラマ化が決まったキム・スタンリー・ロビンソンの火星三部作では、有人船の火星エアロキャプチャが一般的に使われるようになっている。

上記の概要動画(動画はNASAのサイトではない)。
https://youtube.com/watch?v=nwEAR2reFL4

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