公共図書館といえば、ひたすら静かに本を読むか、あるいは学生が勉強に使う場所。そんな常識はもう古い。さまざまな目的で訪れる老若男女の、それぞれのニーズに応える場に変貌している。
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●昼間人口86万人 働く人と学生の街に根差した“活動の場”
千代田区立千代田図書館
東京都千代田区九段南1-2-1
東京都千代田区は人口わずか5万4000人。それに対し、昼間人口は約86万人にもなるという、日本一昼夜の人口差が大きい区で、その多くがビジネスマンと学生だ。
「当館は地域に根差した図書館を目指して、区民だけでなく、この86万人の方々に使っていただくことを徹底して考えた図書館です」と、千代田区立千代田図書館広報チーフの坂巻瞳氏は言う。
2007年、「あなたのセカンドオフィスに。もう一つの書斎に。」をコンセプトに、千代田区役所庁舎の9階と10階に開館した。
平日の開館時間は夜の10時までで、休館日は第4日曜日のみ。館内に200席ある閲覧席のうち82席が電源と有線LANが利用できるデスクタイプの席。また、図書館内は無線LANが接続可能だ。
図書館は静かに本を読んだり調べ物をする場所で、パソコンを持ち込んで仕事をするような場所ではない、という暗黙の了解を最初に覆したのは千代田図書館なのだ。仕事に役立つことを考え、ビジネス書、専門新聞、白書、事典、地域資料などが充実。千代田区に多い出版業界の関連本、企業の社史なども取りそろえる。また、オンラインデータベース検索システムが極めて充実している。
「検索端末は図書にまつわるさまざまな組織・団体のデータベースとつながっていて、さまざまな過去の新聞、雑誌、法律、科学、言語、官報、学術論文などの記事を検索、無料で閲覧できます。区内には新聞社や出版社も多いため、記者の方がよく利用されています。ビジネスマンの方も、営業したい地域の統計データを調べるなど有効活用されています」と坂巻氏。
オンライン上で図書を閲覧できる「千代田web図書館」も運営している。館内の端末はもちろん、家庭のパソコンでも接続可能だ。千代田区の図書館カードIDとパスワードを入力すれば、どこにいても電子書籍を無料で借りることができる仕組みだ。
「千代田区の図書館は狭く蔵書が少ないため、電子書籍を購入し、オンラインで貸し出している。昆虫図鑑が3Dで動かせたり、文学書にマーカーを付けられたり、オンラインならではの付加機能もあります。身体の不自由な方など、来館できない人にも利用していただいています」(坂巻氏)。ちなみに千代田区の図書館カードは区民でなくても作ることができる。
もう一つの大きな特徴は、日本最大の書店街、神田神保町との連携である。オンラインデータベース端末は、神田古書店連盟が作っている図書目録データベースにもつながっており、図書館の蔵書と共に検索することができる。また、神保町の古書店と飲食店、喫茶店を案内してくれる図書館コンシェルジュが館内にいる。
「この地域には古書店だけで160、新刊書店を入れれば200を超える書店がある。コンシェルジュは神保町をよく知る街の案内人。データベース検索で見つからない本でも、古書店の中の様子や品ぞろえ、店主の顔まで浮かぶので、『この古書店なら持っているかもしれません』といった案内ができる」(坂巻氏)
神保町の膨大な本が図書館の蔵書のようなものだ。一方、神保町の街中に「本と街の案内所」があり、その案内人を千代田図書館の図書館コンシェルジュがローテーションで兼務している。まさに地域に根差した図書館である。
週刊ダイヤモンド
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