KDDIが「新戦略」として発表したのは、保険や住宅ローンなどの金融サービスでした。同社は以前から、三菱東京UFJ銀行とじぶん銀行を設立したり、WebMoneyと一緒にau WALLETを立ち上げたりと、金融分野に対して積極的な取り組みを見せていました。保険の分野でも、ライフネット生命と提携しています。
新たに「auのほけん」と「auのローン」を開始
新たに発表されたのが、「auのほけん・ローン」です。まず、保険に関しては、ライフネット生命が提供しているものを、ほぼそのままauブランドに衣替えしたもの。同社の代表取締役執行役員専務、高橋誠氏は「非常に安価なものを出せるのが、デジタル化された保険商品」と、その特徴を語ります。auの保険は「ライフネット生命のものを、『auのほけん』としてユーザーにお届けする」という形になっていますが、今後はau独自の商品も展開していく方針です。
新戦略を開設する専務の高橋誠氏
ネットに特化して低価格を実現した保険サービス
これに対して、auのローンは、じぶん銀行が主体となった住宅ローンになります。変動金利は0.568%と安く抑えられています。じぶん銀行は、モバイル専業の銀行で、申し込みから利用までが、すべて携帯電話端末だけで完結する設計になっています。アプリもいち早く提供しており、「セキュリティ体制を確立している」(バリュー事業本部 金融・コマース推進本部長 勝木朋彦氏)のもじぶん銀行ならではの部分です。
低金利を打ち出す「auのローン」
とは言え、これだけでは、auが単に関連する会社を使って、保険やローンを出すというだけで、「住居費や、保険、医療も1つの経済圏にできないか」(高橋氏)というには少々弱い印象があります。ここに組み合わせてくるのが、割引です。詳細は未定ながら、保険もローンも、auの携帯電話と組み合わせることでお得になる予定。すでに発表済みの電力と同じように、セット割引を計画しているというわけです。
セット割引も提供していく方針
また、au側で「auフィナンシャルサポートセンター」を設置し、対面での接客も、強化していく方針です。これはいわゆるコールセンターですが、有資格者を配置しており、ユーザーからの相談にきちんと答えられるようになっています。auショップも活用する見込みで、直営店に対して有資格者を派遣するところから始めていくようです。
専用のサポートセンターを設置
将来的には「auショップのスタッフが、資格を取ることもありうる」(高橋氏)といいます。au WALLET Marketで物販を開始したauですが、全国各地に張り巡らされたショップで、携帯電話以外のものも販売し、収益を上げていくというのは同社の基本的な方針。その1つに、保険やローンも加わっていくことになるというわけです。ユーザーにとってみれば、各種手続きが1つの窓口で済むというのは、メリットになるかもしれません。
auショップも活用していく
ただし、これは従来どおり、きちんとユーザーがショップにきてくれればの話。大前提が崩れてしまうと、思うように戦略を実行できません。こうしたサービスをショップで販売できる背景には、携帯電話を求める客の数が非常に多いことがあります。一方で、総務省のガイドラインを先取りして実質0円を見直した結果、「来店者数は激減している」(代表取締役社長 田中孝司氏)現状もあります。このような状況だと、保険やローンを勧めようにも、肝心のお客さんがいないということになりかねません。
auでんきと同様、保険やローンにも何らかの形で割引を提供していくことになりますが、これに関しても、どこまでセット割が有効に働くのかが見えてきません。特に住宅ローンは、文字通り、携帯電話代とケタが違ってきます。数千万のローンを組むのに、数百円から数千円の割引を気にするのは、本末転倒な感もあります。それならば、むしろ銀行同士を比較して、金利の安いところから借りる方がいいと思うのは筆者だけではないはずです。
また、ショップに来店する人が、本当に保険や住宅ローンを求めているのかも、疑問が残ります。auショップと言えば、9割9分の人は、「携帯電話のショップ」だと思っているはずです。携帯電話の契約や機種変更をしにきたときに、保険や住宅ローンを勧められたら、どう感じるでしょうか。筆者であれば、正直なところ「うっとおしい」と思ってしまいます。携帯電話ショップに行くときに、保険を契約したり、ローンを組んだりしようというマインドになっていないからです。
ユーザーが求めているのはライフデザインなのだろうか
じぶん銀行や、au WALLETはモバイルとの連携も深いため、通信事業者であるauが提供するのは分かりやすいところもありましたが、保険とローンに関しては、そこもあまり見えてきませんでした。むしろ、ショップの商材を広げたいというのが、主な狙いのようにも見えました。
割引の全貌がまだ見えておらず、今回提供するサービスも第1弾という位置づけのため、判断が難しいところもありますが、せっかくの強みである通信サービスはもっと生かしてほしいと感じました。