会社広報は取材依頼を断る時に、どこまで「ウソ」(建前?)が許されるのか

あの温厚なジャーナリストの藤代裕之さんが怒っているようです。Yahoo!に宮坂社長への取材を申し込んだ際に断られたのはともかく、断りの理由に「ウソ」があったとのこと。

詳しくはこちら→取材に対してウソをつく組織「Yahoo! JAPAN」が信頼と品質など担保できるわけがない Yahoo!ニュース(個人)

もちろん「ウソ」はいけません。藤代さんが怒るのももっともです。ただ、会社広報を長く経験している立場で言いますと、少し「気付き」もありましたので書かせて頂きます。

こうした「ウソ」は比較的「建前」として広報担当者の中では、取材記者を気遣って、ついていしまう「ウソ」、つまり「方便」だったりもします。もっとも「方便」というのはあくまで「方便」です。使う相手を間違えてはいけません。

Yahoo!さんのような大企業ともなりますと、社長へのメディアからの取材依頼は週に何本もあると思います。もちろん全部の取材は受けられません。依頼のあった中からより影響力がある媒体、編集方針があう媒体、記者や媒体社との付き合いの度合い・・・様々な理由で媒体を「選ぶ」ことになります。取材依頼というのは、依頼する方が「取材させて頂く」わけですから、「取材される側」の方が通常は主導権を握ることになります。(嫌ならば受けない自由があるわけです。強制はできません。)

その上で、広報担当が間に入り、内容や掲載のタイミングや取材方法、取材時間、事前確認の有無などの細かい条件の調整に入ります。今回は朝日新聞の記者の方の取材は受けて、藤代さんの取材は受けなかったわけですから藤代さんが気分を悪くされるのも当然です。

「何で私の取材を受けてくれないんだ・・・」と。

一方で、Yahoo!さんの窓口の方(広報)にしてみれば、ホンネとしては先述の様々な条件を考慮したうえで限られた社長の1日の時間の中での「プライオリティ」としか言いようがありません。藤代さんも新聞社の記者の経験がおありなので、ご本人の記事にもある通り、その点はよく分かってらっしゃると思います。

問題は、ここでYahoo!の広報が、藤代さんにとって結果的に「ウソ」をついてしまったことです。ただし、社内では恐らく悪意をもって「ウソ」をついたつもりはなく、その時点では、あくまで記者である藤代さんを配慮した「建前」だったのではないかと私は想像します。

例えばですが「おたくのようなプライオリティが低い取材は社長は受けません。」というのが本意であったとしても普通は、なかなか広報担当の口から記者の方には言い難いのです。今後のお付き合いもあるからです。気を悪くされて悪く書かれても怖いからです。

広報担当は、あくまで、その時点での「ウソ」という意識はなく「建前」として『Yahoo!ニュースについては担当責任者から語らせたいという宮坂本人の意向』と(社長と相談の上??)回答したのかもしれません。(想像です。)いずれにしろ広報窓口では「取材を受ける」ことよりも「取材を断る」時の方が配慮が難しいことが多いのが一般的です。

そして「おたくの媒体は現時点では弊社の広報活動においてプライオリティが低いので・・・」という本当のことはビジネスマナーとして、なかなか(口が裂けても)言い切れない場合が多いのも現実です。この気持は私は分かります。

そんな場合にはついつい「多忙につき・・」(本当はヒマなのに・・・)あるいは、(細かい)取材はすべてお断りすることにしている(読売や朝日やNHKならば話は別だけど・・・)と、いう含みのある「ウソ」(建前?)の返事をして、その場はお茶を濁してしまうことが、現実には多々あるのです。取材依頼をした側も、通常は相手側の「意を察したり」する場合も多くあります。(良い悪いは別ですが)

今回の件について、どこまで社長本人が詳細を広報担当に指示していたかは分かりません。あくまで広報業務上の一般論としての、私の想像の範囲内ではあります。

藤代さんのお怒りの気持ちは私もコラムニストの端くれとして非常によく理解できます。一方で20年に渡り会社広報等を担当してきた身としては、「ウソ」と「建前」と「配慮」というのは紙一重であり、相手によっては全く異なる感じ方をされてしまう時もありますので、つくづく「気をつけねばいけないこと」だと感じました。

では…もしも私が広報担当だったら、今どうするか・・・こうなってしまった以上は、本当のことをあけすけに言ってしまって、腹を割ってお詫びするのが一番ではないでしょうか?

例えばですが・・・「取材依頼を頂いた時点では、あのように回答させて頂いたが、正確さを欠いていた。」「メディアのプライオリティによっては社長が直接取材を受けさせて頂くこともある。すべての他社の取材を今後お断りすることを約束したつもりはなかった」「今後は社長が受けさせて頂く取材については、媒体ごとに都度、優先順位を社内で判断して可否を判断させて頂きたい。」

で、どうでしょうか?