約1世紀で終幕 「時代の流れ仕方ない」
水戸市中心街にあるカメラ店「栄堂カメラ店」(同市南町2)が約1世紀の歴史に幕を下ろした。フィルムからデジタルへと変わり、現像の注文が激減したことに加え、中心市街地の衰退が追い打ちをかけた。店を切り盛りしてきた渡辺寛子さん(63)は「時代の流れなので仕方がない」とあきらめ顔だ。
寛子さんは創業者の故・渡辺鉄之介さんの孫。正確な創業年は不明だが、1854(安政元)年には女性のかんざしなどを売る小間物屋を営み、大正末期に鉄之介さんがカメラ店に衣替えしたとされる。
水戸空襲での焼失を乗り越え、戦後は町のカメラ店として親しまれた。新聞社から現像を任されることもあり、寛子さんは「『暗室がだめになった』と記者が夜に店に駆け込んできた」と笑いながら振り返る。
鉄之介さんと、2代目の父、淳一郎さんは写真を撮るのが好きだった。寛子さんの手元には戦前の店や終戦から間もない水戸市内の様子を伝える写真が多数残っている。寛子さんは「現像の仕方もよく分からない時代に、ドイツからカメラを輸入して一から始めた店。祖父や父は自分で写真を撮りながらカメラのことを学んだのではないか」と推測する。
修理も行っていたが、1990年代後半に普及し始めたデジタルカメラは店では手に負えず、メーカーに依頼するだけになった。現像の注文も減り、2013年に淳一郎さんが亡くなったこともあって昨年8月に閉店した。「やめないで」という常連客の声もあり、店を続けたいという思いもあったが「中心街の人通りも減ってしまった。もうやってはいけない」と決意した。
寛子さんが続けていた片付け作業も昨年末に終わり、近く看板を下ろす予定だ。【中里顕】