安倍政権が昨年9月19日に安全保障関連法を成立させて5カ月になる。その廃止を求める2法案を民主、維新、共産、社民、生活の野党5党が衆院へ共同提出した。 多くの憲法学者が「違憲」の疑いを指摘する中、与党の数の力で強引に可決された法律である。安倍政権の安保政策の是非が夏の参院選でも争点になるのは間違いなく、3月中の施行を前に、野党各党が一致して廃止法案を提出した意義は大きい。 専守防衛に基づく戦後の平和主義を変質させる安保法に対し、国民の理解が広がっているとは言い難い。前日には、民主、維新が安保法の対案として領域警備法案など3法案も提出し、集団的自衛権によらず自衛隊活動を充実させるとした。与党は論戦から逃げず、堂々と審議に応じるべきだ。 安保法の成立直後に実施された共同通信の世論調査では、審議を不十分とする見方が約8割を占めた。こうした状況を受け、安倍晋三首相は丁寧に説明し、理解を得ていくとしてきたが、むしろ議論を避けてきたのが実態だろう。 例えば、安保法で、自衛隊の国連平和維持活動(PKO)に「駆け付け警護」を加え、襲撃を受けた国連要員などを武器を使って救えるようにしたが、参院選への影響を避けるため、適用は秋以降にするとされる。 内戦が続く南スーダンでは、陸上自衛隊がPKOに参加しているが、駆け付け警護が海外での武力行使を禁じた憲法に違反しないかなど多くの疑問が積み残されている。そうした議論を遠ざけていては誠実な態度とは言えまい。 安倍政権は、歴代内閣が禁じてきた集団的自衛権の行使を憲法解釈の変更で限定容認し、安保法を成立させた。これに対し、憲法学者をはじめ、市民や学生ら幅広い層が、憲法で権力を縛る立憲主義に反し、9条を空洞化させるとして根強く反対の声を上げ続けている。 今回の廃止法案提出は、そうした世論に促された側面もあろう。自民「1強」に対抗するためにも、野党は国民の声をしっかり受け止め連携を広げていく必要がある。 安倍首相は「戦力の不保持」を定めた憲法9条2項の改正の必要性にも言及を始めている。自民党改憲草案に沿えば、集団的自衛権行使の全面容認にもつながりかねない。平和国家の道を誤らないためには、安保法の議論がもっと要る。多くの国民が抱く疑念や不安を放置しておいてはならない。
[京都新聞 2016年02月20日掲載] |