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理解不能な学者達 02.21.2016 陰謀論者のためになぜ論文を書くのか |
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今回の本題とは無関係ですが、例の小保方さんが書いた本は売れているようです。それにしても、STAP細胞について書かれた本が多いこと。恐らく、どの本も真実を述べていないのではないか、とすら思います。余りにも、陰謀論的な題名の本が多いです。ある本によれば、STAP細胞は、iPS細胞の研究者の陰謀で潰された。。。やはり、陰謀論を信じてしまうような風潮が東日本大震災以後、強くなったので、売れるのでしょうね。STAP細胞が本物ならば、少なくとも、厚労省も文科省も嬉しいので、決して潰すことはないのが実態なので、一体誰が陰謀を企ているのでしょうね。某国の某機関という答は余りにも滑稽です。 本日の最初の話題は、遺伝子組み換え食品に発ガン性がある、という論文の根拠となったものの、実験の設計などが不適切だとして、出版社がその論文の取り消しをした、という話です。これで、遺伝子組み換え食品に発ガン性があることは否定されたことになります。一部の遺伝子組み換え食品反対論者にとっては、痛手かもしれません。ところが、別の出版社の雑誌がこれをそのまま掲載したため、その雑誌が有名になった。。。。。何これ。学術論文も陰謀論に、もみくちゃにされているということでしょうか。 もう一つの話題が、福島の甲状腺検査の話です。やはり、陰謀論的な論文を書く学者がいるのです。放射性のヨウ素は、半減期が短いので、被曝量の実体を把握するのが困難です。ヨウ素は、日本人にとってかなり特殊な元素で、普段から海藻をかなり大量に食べていますので、万一のときにもヨウ素剤が不必要と言えそうな民族です。大陸のど真ん中であるチェルノブイリとは状況が違います。被曝量がまあまあ以下であれば、発がんリスクの話は、まだ統計学的な結論は出ないし、まだ現時点では分からないというのが常識的なところでしょう。ところが、色々な解析を行って結論を出す学者が居るのはなぜでしょうか。一言で言えば、陰謀論が大好きな学者なのでは。甲状腺がんの発見数が世界で断然トップの韓国における甲状腺検査の話は、実に、示唆的です。 陰謀論については、佐藤優氏がその著書で、反知性主義の典型であると批判しております。米国の大統領選挙も色々と騒がしいですが、あれも反知性的現象だと思います。 1.遺伝子組み換え食品の発がん性について 遺伝子組み換え食品は、日本では安全性をチェックすることが法的に義務化されています。平成12年1月21のことですから、随分前になります。平成13年4月以降、表示義務がある食品が32品目あります。豆腐、コーンスナック菓子、ポテトスナック菓子などです。 最近では、遺伝子組み換え食品が全く注目されていないように思います。しかし、実は、量的にかなり増えています。主な産物は、ナタネ、ワタ、トウモロコシ、ダイズですが、特に、ダイズの生産面積は増加し、しばらく前の統計ですが、全世界の耕地面積の13%を超したとのことです。 遺伝子組み換え食品に対する態度は、米国・カナダ対EU・日本といった対立構造にありますが、それは、米国の化学企業であったモンサント社をどう考えるかというところが全く違うからでしょう。 東大教授である鈴木宣弘氏は、農業経済学者ですが、もともとは農水省の官僚ですので、TPPには批判的なスタンスのようです。遺伝子組み換え作物は、一旦使いはじめると、その便利さ・経済性の高さのために、なかなか止められないようです。ブラジルのダイズ畑では、遺伝子組み換えダイズに切り替えることによって、農夫を以前の70名から1名に減らすことができたと言われています。ダイズは、豆類ですから、窒素を固定する能力があり、周辺土壌が栄養豊富なもので、雑草が盛大に生えます。これをいかに抜くかが勝負ですが、遺伝子組み換えダイズであれば、モンサント社製の除草剤ラウンドアップを撒けばそれで雑草の対策は終わりです。雑草だけが枯れますが、ダイズはラウンドアップに耐性を持つように、遺伝子が組み替えられていますので無事です。しかし、その種子は、遺伝子組み換えがなされたものをモンサント社から毎回購入することになります。一種のモンサント依存性が発症してしまう訳です。覚せい剤みたいなものなのかもしれません。 ヨーロッパの問題意識は、もう少々ストイックかもしれません。遺伝子組み換え作物からの花粉が広がれば、すべての作物がラウンドアップ耐性を持つようになる。スーパー雑草ができて、除草剤が効かなくなる。これは重大な環境破壊である、といった感じかもしれません。 さて、これから先は、東京大学名誉教授の唐木英明先生が、食の安全と安心フォーラムで食のリスクの真実を議論するというシンポジウムでの発表の内容のご紹介です。いささか古い話なのですが、こんなことが有ったのですね。驚きました。各講演者の発表資料が、ダウンロード可能です。 http://www.nposfss.com/cat9/forum12_news.html 遺伝子組み換え作物の有害性を決定的に補強するような論文が2012年のFood and Chemical Toxicologyに投稿されます。著者は、セラリーニ教授で、フランス人です。英文ですが、このWikiに様々な事情が記述されています。 https://en.wikipedia.org/wiki/S%C3%A9ralini_affair その論文の内容ですが、合計200匹のラットを対象群の他に3つの群に分け、 A群:ラウンドアップで処理したトウモロコシを11,22,33%含む飼料で飼育。 B群:ラウンドアップ無処理のトウモロコシを11,22、33%含む飼料で飼育。 C群:ラウンドアップをほぼゼロ、0.09%、0.5%含む水で飼育し、2年間観察した。 余り明確な差は無かったにも関わらず、記者発表を行って、遺伝子組み換えトウモロコシとラウンドアップを投与したラットの死亡率が増加、肝臓・腎臓などの臓器における毒性所見が増加した、と発表しました。 実は、ラットやマウスは、普通のエサで飼育していても、どんどんと腫瘍ができて死んでしまうのです。ヒトという生命は、それに比べると、がんになりにくい防御機構をもっているものだと感心してしまいます。 さらに、この発表は、どうやら「世界が食べられなくなる日」という映画の宣伝が目的だったと疑われているようです。この映画は、日本でも2013年に公開されているようですが、原発と遺伝子組み換えという二つのテクノロジーが暴走すると、世界がどうなるのか、という問題意識から作られた映画で、ブロガーの志村建世氏は、ブロゴスにこの映画の記事を書いています。この著者は、どうやら山本太郎氏を支持している方のようですね。 http://blogos.com/article/64970/ 結局、この程度の実験動物の量では、統計的な処理ができず、結論を出すのは無理だということで、出版社は、この論文を撤回します。しかし、Environmental Sciences Europeという雑誌が、この論文を再度掲載しました。これは、様々な批判を受けています。 2015年にIARC(International Agency for Research on Cancer)は、この論文に対して、実験動物の数が少なすぎて、統計的に無意味な実験であった、その他、腫瘍の記述なども不十分、という見解を示しています。学術的に当たり前のことが指摘されています。 ラインドアップ単独、あるいは、遺伝子組み換えトウモロコシ単独の試験では、発がん性などの毒性に有意差が無いことは確認されています。このセラリーニ教授の論文は、両方を組み合わせると有害性が見られたという論文故に新規性があったのですが、古くは、公害時代の複合汚染の時代から、二つ以上の毒性を組み合わせると、毒性が何倍にもなるという結果が出せれば、研究として極めて魅力的なのです。しかし、なかなか実験が難しくて、統計的に優位な結果はでないことが多いのです。 それにしても、学者は有名になりたいのですね。そこで、陰謀論が好きそうな人々の方向を向いて、そんな研究をやってしまうのではないでしょうか。これが最大の結論かも知れません。 2.福島の甲状腺がんに関する津田敏秀論文 「福島の子供の甲状腺がん発症率は20〜50倍」という発表をしている教授がいます。岡山大学津田敏秀教授です。こんな論文をだしています。 http://www.ourplanet-tv.org/files/Thyroid_Cancer_Detection_by_Ultrasound_Among.99115.pdf これは、すでに放射性ヨウ素の悪影響が見られているためである、という解釈をしています。 しかし、この論文には、根本的な疑問があります。これまで、放射線影響でがんが発生するのは、全く不思議ではないのですが、被曝後3年程度でがんになることは、ほとんどあり得ないことです。 一方、「福島の甲状腺がんが20〜50倍」論文に専門家が騒がない訳を記述しているのが、越智小枝医師(相馬中央病院 内科診療科長)です。 http://www.gepr.org/ja/contents/20151109-02/ http://www.gepr.org/ja/contents/20151109-03/ その理由は、すでに韓国において、そのような実例が見つかっているからです。次の図に示しますが、1999年にスクリーニングを導入し、広く超音波テストをおこなってきました。 図1 韓国甲状腺がん発症率の推移(越智小枝医師による図) 対象人数が増えるのですから、絶対数が増えるのは当たり前。しかし、不思議なことに、図1のように発症率が本当に上がっているのです。 理由はどこにも書かれていませんが、場合によると、医師の経験値と機器の性能が向上することによって、より細かい水泡のようなものの発見能力が高まったのかもしれません。 そして、韓国は、世界で甲状腺がんの発症ランク圧倒的No.1の国になりました。しかし、死亡者のランクは世界で80位代です。甲状腺がんというがんは死亡率が高いがんではないので、いずれにしても、様子を見ることで良いのですが、果たして韓国でそうだったのか。恐らくそうならなかったのでは。がんが見つかりましたから手術をしましょう。となったのでは。こうなれば、立派ながんだったということになります。下手をすると、そのために死亡率も上昇してしまったのではないか、と推測しますが、データが手元にありません。 津田論文は、2011年から2014年のデータを使って解析をしています。しかし、これまで行われた甲状腺がんの超音波による検査は、まだスクリーニングです。まだがんが発生するには時期的に早すぎるので、今後、継続的に検査するための基礎データをとっておこうという考え方に基づく検査です。 さて、越智医師による記述で、どうして専門家は津田論文を問題にしないのか、ですが、その答は、「要するに、まだ分からないから」です。 韓国は、図1の結果、医療費が非常に増え、しかし、もともと死亡率の低いがんですから、医療効果というものが低いのです。 このブログによれば、 http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2014-11-10 The New England Journal of Medicine誌に掲載された記事の紹介ですが、原則として、そのすべての患者がなんらかの治療を受けています。概ね3分の2の患者が甲状腺の全摘手術を受け、残りも部分切除を受けています。全摘手術を受ければ、その後、一生涯甲状腺ホルモン剤を飲むことになります。 甲状腺以外にも、米国で問題になっているのが、前立腺がんです。PSAという血液検査で分かるがんですが、やはり死亡率が低いがんなのです。どうやら、米国では、PSA検査を止める方向のようです。 多分それは正しいのです。甲状腺がんという死亡率の低いガンの場合でも、余りにも気にすれば、精神的におかしくならないとも限りません。検査をやれば良いというものではないのです。 このような観点から津田論文を見れば、ヨウ素131という半減期がわずか8.04日という元素が出した放射線ですから、今からいくら調べても患者の甲状腺への被曝量など、全く分からないでしょう。この状況を上手く利用しているタイプの論文のようにも思えます。 |
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