今回のテーマは「スライド原稿の作成」についてです。
発表が得意な人に、この手の話題を振ると、
「原稿の作成なんてナンセンス」
「キーワードを見ただけで、話ができるように練習するのが良い」
という答えが、しばしば返ってきます。
確かに、原稿を読み上げた発表を聞くと、
言葉的にも、見た目的にも違和感を感じ、
発表の内容が、あまり印象に残らなくなります。
反対に、原稿を使わずに、
スライドのキーワードを見ながら、流暢に説明されると、
とても印象的です。
しかし、
「では、原稿は作らない方がいいのか?」
というと、そんな事はないと僕は思っています。
特に国際学会発表の場合は、原稿を作るメリットが大きいです。
その理由を、順を追って説明していきたいと思います。
@ 「英語が思いつかない」という事態を回避することができる
国内の学会発表とは違い、
海外の学会発表では英語で話をしなければなりません。
すると、母国語の日本語なら出てくる言葉でも、
英語になると、スラスラ出てこないことが良くあります。
しかし、原稿を作成しておけば、
しゃべりの中で、どの英語表現を使うのかを事前に考えることができ、
「英語が出てこない」という事態を避けることができます。
A 正しい発音やアクセントを、事前に確認することができる
「talk」とか「listening」などのように、
中学校で習うような単語であれば、大体の発音やアクセントは分かります。
しかし、日常会話ではあまり出てこない専門用語や学術的な表現などは、
正しい発音やアクセントが、イメージしているものと違うことが多いです。
例えば、有名な例では、
「glycogen」
という単語があります。
ブドウ糖 (α-グルコース) が多数連なった糖質で、
筋肉などにエネルギー源として貯蔵される物質ですね。
日本語では「グリコーゲン」と発音します。
しかし、この単語の正しい発音は、
「グライコジェン」
であり、「ライ」の部分にアクセントがあります。
これを「グリコーゲン」と発音しても、海外では全く通じません。
そして、間違った発音やアクセントが目立つ発表は、
いくら内容が良くても、聞き手に理解してもらえません。
しかし、原稿を事前に作成しておけば、
自分の発表の中に出てくる英単語が事前にわかり、
その発音やアクセントを調べておくことができます。
この作業は、海外の学会発表の準備では極めて重要です。
B ストーリー展開に飛躍や矛盾がないかをチェックすることができる
これは発表スライドでも、ある程度確認できます。
しかし、
最小限のキーワードやデータのみをのせているスライドでは気づかなかった点も、
原稿にすると気づくことがあります。
そこを事前に修正しておけば、
本番の発表で、飛躍や矛盾点のない話をすることができ、
聞き手の印象に残る研究発表をすることができます。
C 音読の反復練習によって、なめらかな英語を話すことができるようになる
ふだん使い慣れない英語を突然話すと、
舌を噛んだり、言葉につまったりします。
それは、手元に原稿があったとしても同じことです。
そして、
話がとぎれとぎれになる発表というのは大変聞き苦しく、
あまりにひどいと、聴衆は話を聞いてくれなくなります。
よって、原稿を作成した後には、必ず「音読の反復練習」を行います。
それも、ただ棒読みをするのではなく、
あたかも会話をしているかのようなレベルになるまで、練習をくり返します。
すると、英語であっても、滑らかな会話調に近くなり、
プレゼンが大幅に改善されます。
D 原稿を見ずにプレゼンできるまで練習して、「あがり症」を克服する
この原稿作成で一番伝えたかったことですが、
原稿を作成した後に、必ずやってほしいことがあります。
それは、
「原稿を見ずにプレゼンができるまで、練習をくり返す」
ということです。
もっと欲をいうと、
「スライドさえも頭に入れて、何も見ずに発表できるまで練習する」
のレベルまで、やって欲しいと思っています。
メリットは3つあります。
(a) 「あがり症」が克服できる
僕にとって、一番大きかったのが、この効果です。
実践して驚いたのですが、
慣れない海外で、外国人が多数集まっている中で発表をしているにも関わらず、
全くあがらずにプレゼンができました。
(もちろん、多少の緊張感はありましたが)
人前では良くあがっていた僕がです。
僕の場合、本番の2週間前から、原稿作成と音読練習にとりかかり、
1週間ぐらい前からは、スライドと原稿を必死で覚え、
発表の練習を行っていました。
特に僕の場合、日本語でも発表に苦手意識があったので、
1日に数時間は練習していました。
そのかいあって、本番の5日ぐらい前からは、
何も見ずにプレゼンができるようになりました。
すると、シチュエーションや日にちが変わっても、
同じように英語がスラスラ出てくるため、
「さすがに、これだけ練習したのだから、失敗はしないだろう」
「少なくとも、棒立ちになることはないだろう」
と思うようになりました。
そして実際に、本番でも特にあがることなく、
発表ができてしまったわけです。
おそらく「膨大な練習に基づいた自信」ができたことによって、
あがらずに済んだのではないかと思っています。
振り返ってみると、発表前に良くあがっていた頃は、
発表がうまくいく自信がありませんでした。
また、この学会で成功体験を積んだためか、
それ以降の別の発表でも、昔ほど緊張することがなくなりました。
「人前であがること」が悩みだった僕にとっては、嬉しい変化です。
あがり症の克服には、
「人前で話す訓練をする」
とか、
「場数を踏む」
とか、言われていますが、それだけではなく、
「根拠に基づいた自信を持つこと」と「くり返しの成功体験」
が大切だと、僕は思っています。
(b) 自然な会話調になる (原稿を読んでいる感がなくなる)
冒頭でも書きましたが、
会場で原稿をパラパラめくりながら読み上げているのを見ると、
「読み上げている感じ」
が伝わってきて、違和感を感じてしまいます。
しかし、原稿を見ずにプレゼンができるようになると、
手元で原稿をパラパラめくることもありませんし、
話し方も、より自然な会話調になります。
原稿を作っている感じがしないために、
特に違和感を感じることなく、聴衆が発表を聞いてくれるようになります。
(c) キーワードを見ただけで、言葉がスラスラ出てくる発表ができるようになる
これも、実際にやってみて驚いたことなのですが、
この訓練をすると、キーワードを見ただけでも、
言葉がスラスラ出てくる発表ができるようになります。
今回の発表が終わった後に、
スライドを少し作り変えて、別の発表を行ったのですが、
原稿を作ることなく、
スライドを見るだけで、スラスラと発表ができました。
おそらく、スライドを見ずに発表できるようになるまで練習したために、
頭のなかにストーリーのイメージができ、
言葉にしやすくなったのかもしれません。
以上長々と説明してきましたが、
国際学会発表の場合は特に、
「原稿を準備すること」
は大事な作業であり、
「原稿を見ずに発表ができるようになるまで練習をくり返す」
ことが、学会発表の成功のカギだと思っています。
準備は大変で、きつい作業だとは思いますが、
プレゼン嫌いを克服し、海外の学会発表を成功させるためにも、
ぜひがんばってくださいね。
以降の「プレゼンテーション」の記事では、
このスライド原稿の作成のポイントや、発表のコツなどについて、
書いていこうと思っています。
この情報が少しでもお役に立てれば幸いです。
P. S.
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