彼ら大富豪が、スーパーで買い物でもするような感覚で数千万円、数億円を使える一方で、世界には1日100円足らずの生活費で暮らす極貧層が約12億人、200円以下で暮らす人がおよそ30億人いる。全人類の半分近くは、雀の涙のような収入で何とか糊口をしのいでいるのだ。
ゲイツ氏の全財産を使えば、単純計算で日本国民よりも多い、1億3000万人の貧困層を1年間養うことができる。だからといって、当然ながら、彼の命に貧しい人々の1億倍の価値があるわけではない。それに、ゲイツ氏に普通のサラリーマンの何百万倍も能力があるとは考えづらい。
はたして、一人の人物が億単位の人を養えるほどの大金を手にすることに、妥当性はあるのか。著書『これからの「正義」の話をしよう』がベストセラーになった、ハーバード大学のマイケル・サンデル教授が言う。
「普通に考えれば、数千億円、数兆円という富を一人の大富豪が独占することには、意味がありません。到底使い切れないですからね。せいぜい数十億円もあれば、一人の人間が満足できないということはないはずです」
'10年に来日して東京大学で授業を行った際、サンデル氏は学生に「イチロー選手の年俸はオバマ大統領の年俸の42倍(当時)だが、これは妥当か否か」という問いを出し、大激論となった。
影響力や責任の重さを考えれば、オバマ大統領の年俸はイチローより高くてもおかしくないだろう。しかし実際には、人は必ずしも世の中への貢献に見合った報酬がもらえるわけではないし、生まれた瞬間に莫大な資産を相続する者もいる。大企業の創業者ともなれば、自分の報酬額を自分で決めることさえできる。
日本もすでに超格差社会
その一方で、働けど働けど貧しいままの人は、世界中に数知れない。
「『カネを持っている』ということが、『休暇のあいだに贅沢をしたり、豪華なヨットや自家用飛行機を持つ権利がある』ということだけを意味するのであれば、あまり大した問題ではないでしょう。
でも実際には、高度な教育、手厚い医療、安全な暮らしといったものも、金持ちほど手に入れやすいわけです。政治権力への影響力もカネ次第です。事実、大富豪がやると決めた戦争で、今も庶民や貧困層が死んでいる」(前出・サンデル氏)
サンデル氏が教えるハーバード大学でも、学生の親の平均年収は約5000万円。金持ちの子は最高の教育を受けてエリートになり、ますます富と権力を得る。貧乏人の一族は、何代経っても貧乏なまま。今や、それが米国の常識だ。
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