薬物をめぐる少年非行に変化が起きている。かつては圧倒的に多かったシンナー関連の違反は全国的に激減。兵庫県警が逮捕・補導した少年は1990年には千人を超えていたが、2013年以降は3年連続でゼロとなっている。一方、15年に大麻関連で県警が摘発した少年は26人となり、前年の3人から急増。危険ドラッグの規制が強化され、大麻に回帰しているとの見方も出ている。(初鹿野俊、小林伸哉)
【グラフ】大麻事件摘発者数の推移
シンナーは塗料などに使われ、少年が工場から盗んだり、密売人から購入したりして乱用するケースが多かった。
警察庁によると、吸引や吸引目的で所持したとして、毒劇物法違反容疑で逮捕・補導された少年は、1990年に全国で2万2366人。その後は右肩下がりで減り続け、2014年はわずかに14人だった。
兵庫県内でも傾向は同じで、県警少年育成課によると、同容疑で摘発された少年は1990年の1019人から年々減少。2012年に10人を摘発して以降は一人もいない。
「乱用防止教室を通じてシンナーの怖さに対する理解が広まった。密売人ら供給源の取り締まりを強化した成果も大きい」。警察庁の担当者は減少の理由をそう分析する。
県警が設置する少年サポートセンターの関係者は「シンナーで歯がボロボロになるのは、身なりを強く意識する今の少年には合わず、時代遅れなのかもしれない」と指摘。実際、補導活動でも少年らがシンナーを話題にすることはないという。
犯罪心理学が専門の桐生正幸・東洋大教授は「シンナーを吸う少年が減ったのは、流行が廃れたということではないか。少年らの関心がインターネット空間やいじめなど内向きに変化しているとも考えられ、注視の必要がある」としている。
【大麻使用は昨年急増 危険ドラッグ規制影響?】
大麻取締法違反容疑で逮捕・補導される少年の増減は薬物をめぐる社会環境の変化を反映しているとみられる。
県警が摘発した少年は、1990~2001年には年間1~5人で推移。その後は増減を繰り返し、10年には神戸市内の女子中学生グループが逮捕されるなど32人にまで増加した。捜査員は、インターネットを通じて安易に入手できるルートができたことを要因の一つに挙げる。
11年以降は危険ドラッグが広がったのと対照的に大麻関連の摘発が減っていたが、15年は一転。14年の約9倍に当たる26人にまで急増した。規制や取り締まりの強化により、県内に約30カ所あった危険ドラッグの販売店などが同年末までに消えたため、大麻に回帰した可能性がある。
15年には西宮や加古川、姫路市内の民家で大麻を大量に栽培したとして、県警がベトナム人の2グループを摘発。密造組織が横行している実態が裏付けられ、県警は「大麻の供給ルートが増えれば、少年にとってもより身近になる恐れがある」と警戒する。
岐阜薬科大の勝野眞吾前学長(71)=健康教育学=は「幻覚作用など大麻の有害性は明らか。他の薬物にも手を出す入り口となる危険性も高い」とし、予防教育の重要性を指摘している。
【シンナー】 塗料として使用されることが多い有機溶剤の一種で、毒劇物法の対象。吸引すると「酩酊(めいてい)感が得られる」として、かつては少年を中心に乱用が相次いだ。常習的に吸引すると歯が溶けるほか、体中の細胞がダメージを受け、幻覚が見えたり失明したりし、急激な摂取で突然死する場合もあるとされる。