河崎優子
2016年2月23日23時42分
日本で一番南にある「五ケ瀬ハイランドスキー場」(宮崎県五ケ瀬町)のCMが、ここ数年で全国的に話題となった。「南ちゃん」の甘い語り口と、彼氏「てっちゃん」の絶妙なナレーションが男心をつかみ、「ユーチューブ」の視聴回数は3季で計140万回を超えている。
2012年冬、同スキー場は、胸元が開いたTシャツを着た「ユキちゃん」のバストをアップにしたCMをつくった。パウダースノーの柔らかいイメージを女性の胸に結びつけたもので、刺激的と話題になった。
翌年に始まったのが南ちゃんシリーズ。南ちゃんとてっちゃんの恋愛を描いた15秒のCMは毎年10パターン以上あり、宮崎、熊本、鹿児島の3県で放映されてきた。話をつなげるとドラマ仕立てになっている。南ちゃんが思わせぶりなせりふを言い、てっちゃんが絶妙な返しをするシリーズは、ライバルの「新・南ちゃん」との三角関係を経て3季目の今年、2人が結婚してハッピーエンドとなった。
手がけたのは、電通九州(福岡市)のCMプランナー左俊幸さん(40)。左さんにとってスキーやスノーボードの印象は「出会いがありそうで、もてたいやつがやるスポーツ」。そんな若者に刺さるのは、男女が登場する、少しエッチなものと思い、「男性目線」を意識して制作にあたった。
CM案をPRするために、初めて五ケ瀬町を訪れた左さんの町の印象は「田舎」だった。何回か訪れ、スキー場の人々と交流するうちに人のよさや自然の美しさに魅せられていったという。
朝、コンビニに行くとまだ開店していなかったが、左さんに気づいた町の人が店を開けてくれた。店内には「南ちゃん」のポスターが貼ってあり、町一丸となってPRしていることにも驚いた。「『こんないい町は全国に知ってもらうべきだ』と僕らの方が盛り上がって、気持ちが入った」
1、2季目は知ってもらうことと、話題にすることを考え、インパクトのあるものにした。認知度が高まった今季は、実際に来てもらうことに重点を置いた。「スキー場自体はどこも似たようなもの。どうしたら来てもらえるか考えたときに、町をPRすることを考えた」。五ケ瀬ワインや温泉、夕日、人の優しさなど、町の魅力を伝えた。
「話題性を狙うのであればもっと刺激的にもできたし、不幸な終わり方もできた。再生回数を稼ぐCMではなく、本当に来てもらえるものをめざした」
「下ネタなんてもってのほか」「何をつくっているんだ」。第三セクターで運営する同スキー場。当初、町議会でも話題になり、一般質問では男女共同参画センターから抗議の声もあがった。パウダースノーの美しさと女性の美しさをかけて表現したことなど、丁寧にその狙いを伝えた。
スキー場の取締役支配人、広本俊二さん(35)は「ユキちゃんCMで来客数が千人増えたし、話題にするためにはこれしかなかった」。当時副町長だった原田俊平町長(61)は「現場の人たちがやりたいならこれで行こうと、心配しながらも勇気を出してゴーサインを送った」と話す。
左さんは「よくこんな企画を採用してくれるな」と町の英断に驚いたという。
話題を呼んだユキちゃんCMの次作ともあり、南ちゃんCMは一気にネット上で広がり、「今年も攻めてる」と毎回、注目されるようになった。今季はスキー場のスタッフも登場。広本さんは「作り手と依頼者の思いが一致した、笑いあり感動ありのCMです」。
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