昔、家庭教師やら塾講師やらで、小学生中学生に国語や算数を教えていたことがありました。
家庭教師や塾講師の仕事というのは、基本的には「子供の出来ない部分をどうやって発掘するか」という一点に尽きます。
家庭教師や塾講には、ざっくり言って二つのパターンがあります。「受験の為に、出来る子をもっと伸ばしてあげる」授業と、「学校の授業の為に、出来ない子をなんとか救い上げてあげる」授業です。
私がやっていたのは、どちらかというと学校の授業についていけなくなってしまった子の為の、救い上げの作業が専らでした。この作業には、「学校のテストで何点が取れるか」という、非常に明確な指標があります。
テストでいい点がとれるようになると、本人も親も喜んでくれて時給も上がります。テストの成績が上がらないと割とすぐに切られます。ある意味ひじょーーにシビアな世界でした。
私は、自分の研究そっちのけで、子どものテストの点数をいかに上げるかを考えていました。
子供は、自分が出来る、自分に分かる範囲の勉強については、ある程度放っておいても勝手にやってくれるもんです(少なくとも、家庭教師をわざわざつけようというくらい、子どもの教育に気をつかっている家庭では)。しかし、元々出来るところを繰り返しやっていても、50点未満を取らないようにはできますが、70点、80点をとれるようにはしてあげられません。
子供の成績を上げる為には、
1.どこでつまづいているのかを発掘する
2.つまづいている理由を検討する
3.それを解決する為にはどうすればいいかを考える
4.本人をその気にさせつつ、3で考えた解決法を実施させる
という4ステップが必要になります。これ、最初の1回をスムーズにやることが一番重要でして、「あ、すごい、分かる!」と感じてくれると、それ以降の勉強に対するモチベーションが全然変わってきます。逆に、「このにーちゃん何言ってるのかよくわかんない」と感じてしまうと、以後全然話を聞いてくれなくなります。子どもはシビアです。
だから、最初の1回で、なるべく分かりやすい形で、「つまづいているところの発掘と解決」をしてあげないといけません。ここが、教える側としての最大の腕の見せ所だったと思います。
で。
算数の話なんですけど、小学校高学年くらいで「算数が苦手」っていう子って、割とつまづいている場所のパターンが限定されているんですね。大体、小1や小2くらいには何の問題もなくできていたんだけど、小3、小4くらいの基礎的なところをなんとなく分かった気になって通り過ぎてしまって、小5や小6で応用的な部分が出て来た時には全然わかんなくなっちゃった、というパターンが殆どでした。
算数というのは積み重ねですから、苦手な子の中には、びっくりするくらい基本的なところで躓いちゃってる子も珍しくありませんでした。「分数の文章題が苦手というからよくよく聞いてみたら、実は2桁×2桁の掛け算があやふやでした」とか、よくある話でした。
以前、「割り算の筆算がわからない」という子の為にどんな風に教えていたか、という記事を書きました。
興味がある方はよかったら。「割り算ではなく、何個入るかな算として教える」というのが一番のポイントでした。
そんな中で、「図形の文章題がよくわかんない」という子が、小学校高学年から中学校初頭くらいで結構いました。
図形の文章題って、例えば補助線の引き方とか、図形の捉え方とか、そういうところでつまづいてるのかな?とか、大人としては思っちゃうじゃないですか。
勿論そういうパターンの子もいたんですが、もっと多かったのが、「図形以前に、もっと基本的な計算のところでいい加減な理解しかしていなくて、結果的に計算しても数字が合わなくって訳わからなくなってる」というパターンでした。
こういうパターンの子を見つける為に、円周率の3.14っていう数字が絶妙だったりしたんですよ。
少数第二位までの計算って、少数の計算方法がわかっている子には簡単にできて、少数の理解がいまいちな子には出来ない、一番絶妙なところなんですね。3.1、だと乗算で繰り上がりが発生しないし、計算が単純だからなんとなく計算が合ってしまう。3.142、だと分かってる子でも計算ミスがちょこちょこ起きるし、計算が煩雑になって教えにくくなる。
3.14。ちゃんとわかってないと合わない。分かってると簡単。
円の面積の求め方って、小学校6年で勉強します。当然、円周率も6年の課程です。
けど、小4や小5の「整数の除法」とか「少数の加法・減法」「乗数や序数が少数の場合の乗法及び除法」辺りでつまづいたまま6年に入っちゃうと、他のところでてきめんにつまづきまくります。
「分からないところ」を釣り上げる為のフックが必要。そして、そのフックには「ちょうど良さ」が必要です。
ちょっと前に、3.14という中途半端な数字について、数学としての精密性とか、有効数字の意味とか、いろんなところから議論になっているのを見かけました。精密に教えないなら「おおよそ3」で別にいいじゃねえかとか、まあ色々、それぞれ説得力があるお話だったと思います。
ただ、3.14っていう中途半端な数字が役に立つこともあるんだよ、と。少なくとも私にとっては、何人かの生徒を算数嫌いから救い出せた、結構大事なフックだったんだよ、と。
そんな側面もあるということをお伝え出来たらなあ、と思ってこの記事を書きました。
今日書きたいことはそれくらい。