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 日本銀行の「マイナス金利政策」の評判が芳しくない。住宅ローン金利は過去最低まで下がったものの、同時にほぼゼロになった預金の利息に不満の声が出る。世界経済の先行き不安もあって足もとの株価もさえない。お金を預けた方が利息を払う「あべこべ」の世界は私たちを豊かにするのか。日本銀行の黒田東彦総裁にきいた。

 ――1月29日の金融政策決定会合で、マイナス金利政策の導入を決めた背景をうかがえますか。

 「年初から原油価格の下落が続き、中国やその他の新興国、資源国の経済の不透明感が高まるなか、世界的に株価や為替の変動が続いていたというのが、導入を決めたころの状況でした。(人々が将来も物価が下がり続けると思う)デフレマインドの転換が遅れるリスクが高まっていたので、従来の大規模な金融緩和に加えて導入しました」

 ――どんな政策効果を狙っているのですか。

 「イールドカーブ(利回り曲線)の起点を下げるとともに、従来の大量の国債の買い入れを続けることで、短期から長期まで金利の水準全体を引き下げることです。狙い通り、企業向け貸し出しの基準となる金利や住宅ローンの金利が下がっています。これから設備投資や住宅投資などが増え、経済にプラスの影響が出てくると考えています」

 ――しかし、新政策の決定後も円高や株安が進んでいます。

 「確かに金融市場の動揺が続いています。これは、原油価格の下落や中国経済の先行きに対する不透明感に加え、欧州の銀行の経営に対する懸念や米国の金利引き上げのテンポの不確実性など、様々な懸念が市場の中で意識されたためだと思われます。リスクを過度に回避する傾向が続いている気がしますが、日本の経済や物価に与える影響はしっかり見ていきます」

 ――預金金利もほとんどゼロまで下がってしまい、預金者からは不満の声も出ています。

 「預金金利はもともと非常に低い水準まで下がっており、それが若干、引き下げられたということでしょう。これに比べると、住宅ローンなどの貸出金利の低下の方が下げ幅も経済全体への影響もずっと大きく、企業や家計にとってはプラスになると思います」

 ――預けても金利がつかない状況だからこそ、人々は不安になってお金をせっせとため込み、投資や消費に慎重になりませんか。

 「そういう懸念は持っていません。マイナス金利政策は我が国では初めてで、いろいろな意見が出ていることは承知しています。ですが、貸出金利を引き下げ、投資や消費にプラスの影響を与えることを狙っている点では、これまでの大規模な金融緩和と基本的に違いはありません。企業向け貸し出しは伸びており、今後も同様に前向きな効果が出るとみています」

 「預金金利と残高の関係についてはいろいろな研究がありますが、基本的には金利が下がれば預金が減るのがふつうで、預金が増えるということはあまり考えられません」

 ――黒田総裁は「金融緩和に限界はない」とおっしゃっていますが、マイナスの金利は何%まで下げられるのでしょうか。

 「さらなる引き下げには、十分な余地があります。ただ、マイナス金利にすること自体が目的なのではありません。経済や物価の動向を無視してマイナス幅を拡大することはありません」

 ――日銀がさらにマイナス金利の幅を広げ、一般の預金者まで銀行から利息を取られることはありませんか。

 「個人の預金金利がマイナスになることはないと思います。欧州でも四つの中央銀行が、日銀より大きなマイナス金利にしていますが、個人の預金金利はマイナスになっていません」