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被爆者認定訴訟 幅広い救済への議論を

 原爆被爆者の認定見直しが改めて必要だとする司法判断だ。

     長崎への原爆投下時、援護対象として国が指定した被爆地域外にいたため被爆者と認められていない「被爆体験者」に対し、長崎地裁は被爆者健康手帳を交付するよう長崎県と長崎市に命じた。地域外の人を被爆者と認めた初の判決である。

     国は被爆者援護法に基づき、長崎の被爆地域を爆心地から南北に各12キロ、東西に各7キロと定めた。当時の行政区域で線引きしたため完全な円形でなく細長い。12キロ圏内でも地域外の場所で原爆に遭った人は被爆者ではなく、被爆体験者として区別されている。この行政の都合による線引きに合理性は見当たらない。

     被爆体験者に対し、国は2002年に被爆体験による精神疾患と合併症に限って医療費を支給する支援事業を始めた。一方、手帳を所持していれば医療費は原則自己負担が不要で健康管理手当も出るなど、行政による援助の内容に差がある。

     裁判では、被爆体験者が援護法の被爆者に該当するかが争われた。判決は、被爆地域外の住民も外部被ばくのほか、呼吸や飲食などで放射性降下物を摂取し、内部被ばくが生じる状況にあったと認定した。

     そのうえで判決は、年間の積算線量が自然放射線の10倍を超える25ミリシーベルト以上の場合、健康障害を生じる可能性があったと結論づけた。低線量の被ばくが健康に与える影響を考慮した判断と言える。

     判決は、行政の判断による線引きの範囲外でも原爆による健康被害を受けた可能性があると指摘する一方で、積算線量という新たな線引きの基準を示した。

     そのため原告161人のうち被爆者と認定されたのは10人に過ぎず、「全員の救済」を目標とする原告らには納得のいかない結論となった。25ミリシーベルトという基準の妥当性を含めた議論が今後必要だろう。

     広島原爆では、長崎の被爆体験者のような支援制度はない。ただし、今回の訴訟と同様に、援護対象区域の拡大を求める動きはある。

     原爆投下後の「黒い雨」が多く降った地域を国は援護対象区域に指定した。その区域外で雨を浴びた被害者が被爆者健康手帳の交付を求めて広島地裁に訴訟を起こし、被爆者認定の制度見直しを訴えている。

     長崎、広島の被爆者の平均年齢は80歳を超えた。田上富久長崎市長は昨年8月9日の長崎平和宣言の中で、被爆者の実態に即した援護の充実と被爆体験者が生きているうちの被爆地域拡大を強く要望している。今回の判決を一つのきっかけにして、政府は幅広く救済できる制度を考えるべきだ。

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