ナンパ師の最期
某日曜日 20時00分
銀座で「彼女」へのプレゼントを買って、有楽町駅まで歩く。
今年は暖冬といえど、2月の厳しい寒風は身にこたえる。
僕は厚手のダウンジャケットのポケットに手を突っ込み、背中を丸めながら歩いていた。
ふと顔を上げると、目の前を駅方向に歩く30代そこそこの綺麗な女性の後ろ姿が目に映った。
(歩くのが遅い子だな。ちょっと声をかけてみるか……?)
(いや、待て。自分が右手に持った買い物袋を見てみろ。それは誰にあげるんだ?もう、ナンパはやめたんじゃないのか?)
10秒くらい葛藤した後に平静を取り戻し、歩みの速度を落とす。
-僕はもう、ナンパをやめたんだ
駅前の広場に差し掛かった際、周囲と異質な雰囲気を纏った男性二人組を見かける。
(ナンパ師か…)
そう思ったのも束の間、先程一条が声かけを思い止まった女性に対して、その内の一人の男が話しかけに向かった。
(やっぱりな…。だが、彼は失敗するだろう。)
案の定、その男性はガンシカを食らって、ニヤニヤしながら仲間のところに戻って行った。
(俺ならあの女性をオープンできたよ)
そんなことを考えながら、有楽町駅から山手線に乗り込んだ。
・・・
正直、彼らが羨ましいと思った。
自由で、誰にも縛られていなくて、一緒にナンパできる仲間がいて。
一条も、去年まではそうだった。
港区のタワーマンションの高層階に一人で住んで、タクシーを乗り回して六本木・麻布・銀座で遊び倒していた。
クラブでも道端でも、ヤりたい女には躊躇なく声をかける。
仕事が忙しいながらも、週に一人は新規の女性を抱いていたし、呼べばマンションまで飛んでくる既セクもそれなりにいた。
だが、去年をもって、その生活を捨てることになった。
ここでは詳しく書けないが、3年程度続けたこの生活にピリオドを打つ時が来た。
一条は、ナンパ師を引退することになった。
そして・・・
「ねぇ、ナンパブログやってるでしょ?」
今まで一度として起こらなかった事態が起こった。
過去に関係を持ち、このブログで記事にした女性から、このブログを発見した旨の連絡があった。
一条は、記事にした子からの特定を避けるために、ところどころ実際と異なる内容を書くように努めていたが、記事にリアリティを追求しすぎた結果、特定に至らしめる描写となっていたようだ。
その子を大きく傷つけてしまった反省から、過去の記事を全て非公開とした。
これが、ナンパ師・一条尚也の最期だ。
これまで関係を持った全ての女性に敬意と謝罪の意を込めて、筆を置くこととしたい。
完
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銀座で「彼女」へのプレゼントを買って、有楽町駅まで歩く。
今年は暖冬といえど、2月の厳しい寒風は身にこたえる。
僕は厚手のダウンジャケットのポケットに手を突っ込み、背中を丸めながら歩いていた。
ふと顔を上げると、目の前を駅方向に歩く30代そこそこの綺麗な女性の後ろ姿が目に映った。
(歩くのが遅い子だな。ちょっと声をかけてみるか……?)
(いや、待て。自分が右手に持った買い物袋を見てみろ。それは誰にあげるんだ?もう、ナンパはやめたんじゃないのか?)
10秒くらい葛藤した後に平静を取り戻し、歩みの速度を落とす。
-僕はもう、ナンパをやめたんだ
駅前の広場に差し掛かった際、周囲と異質な雰囲気を纏った男性二人組を見かける。
(ナンパ師か…)
そう思ったのも束の間、先程一条が声かけを思い止まった女性に対して、その内の一人の男が話しかけに向かった。
(やっぱりな…。だが、彼は失敗するだろう。)
案の定、その男性はガンシカを食らって、ニヤニヤしながら仲間のところに戻って行った。
(俺ならあの女性をオープンできたよ)
そんなことを考えながら、有楽町駅から山手線に乗り込んだ。
・・・
正直、彼らが羨ましいと思った。
自由で、誰にも縛られていなくて、一緒にナンパできる仲間がいて。
一条も、去年まではそうだった。
港区のタワーマンションの高層階に一人で住んで、タクシーを乗り回して六本木・麻布・銀座で遊び倒していた。
クラブでも道端でも、ヤりたい女には躊躇なく声をかける。
仕事が忙しいながらも、週に一人は新規の女性を抱いていたし、呼べばマンションまで飛んでくる既セクもそれなりにいた。
だが、去年をもって、その生活を捨てることになった。
ここでは詳しく書けないが、3年程度続けたこの生活にピリオドを打つ時が来た。
一条は、ナンパ師を引退することになった。
そして・・・
「ねぇ、ナンパブログやってるでしょ?」
今まで一度として起こらなかった事態が起こった。
過去に関係を持ち、このブログで記事にした女性から、このブログを発見した旨の連絡があった。
一条は、記事にした子からの特定を避けるために、ところどころ実際と異なる内容を書くように努めていたが、記事にリアリティを追求しすぎた結果、特定に至らしめる描写となっていたようだ。
その子を大きく傷つけてしまった反省から、過去の記事を全て非公開とした。
これが、ナンパ師・一条尚也の最期だ。
これまで関係を持った全ての女性に敬意と謝罪の意を込めて、筆を置くこととしたい。
完
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