【モスクワ=古川英治、ワシントン=川合智之】ロシアのプーチン大統領とオバマ米大統領は22日、両国がそれぞれ支援するシリアのアサド政権と反体制派に一時停戦を呼びかけることで合意した。だが計画通りにロシアが戦闘行為をやめるかどうかは流動的だ。ロシアには、シリア難民に困惑する米欧を揺さぶり、ウクライナ問題で発動された対ロ制裁の解除を狙う思惑もありそうだ。
今回の合意内容は、過激派組織「イスラム国」(IS)などのテロ組織は停戦対象から外している。このためロシアが「対テロ」を名目に、停戦合意後も反体制派への攻撃を続ける余地が残る。戦場で戦う相手を第三者が特定するのは難しい。
前例がある。22日の米ロ合意に先立ち、米ロや欧州、中東などを加えたグループは11日にいったんは停戦で合意した。だが合意後もロシアは要衝アレッポなどで反体制派への空爆をやめなかった。
今回もロシアはアサド政権が要衝アレッポを掌握するまで、反体制派に対する攻撃を続ける可能性がある。ロシアが後ろ盾となっているアサド政権の支援を続け、同政権のシリア実効支配を固める目的があるとみられている。
プーチン政権が強気に出ているのは、米国がシリアで軍事的にロシアと対峙することはないと踏んでいるからだ。ケリー米国務長官らは「空爆の大半は反体制派が標的」と対ロ非難を繰り返すが、戦闘を止めるにはロシアに協力を求めるしかない。
一方で中東からの難民流入に直面する欧州では、シリアの混乱を収束させるためロシアに譲歩し協力を取り付けるべきだとの声も強まっている。欧州の外交官は「難民問題などでロシアとの対話は不可欠」と指摘する。
今回の合意では米国が要求してきたアサド政権の退陣問題には触れず、米ロ間のホットラインを開設することが決まった。実質的にはロシアに有利な条件での停戦だ。
原油安により苦境に陥ったロシアは対ロ制裁の解除を欧米に働きかけている。欧州の外交官は、ロシアがウクライナ領クリミア半島を武力で自国に編入したことを機に停止した対話の枠組みを再開することを欧州連合(EU)が検討していると明かした。