市川美亜子
2016年2月23日11時45分
愛知県内で列車にはねられて死亡した認知症の男性の妻らに、JR東海が損害賠償を求めた訴訟の判決が3月1日、最高裁で言い渡される。「夫婦は協力し合う義務がある」とした民法の規定を理由に、監督責任を妻に負わせた二審判決が見直されるかが焦点だ。3年前、認知症の夫が起こした火事で監督責任を問われた大阪府内の女性は、「配偶者を押しつぶすような判決は出さないで」と願う。
女性(74)の手元には、1冊の真新しい全国道路地図がある。認知症の夫(当時82)を自宅に残し、この地図を郵便局に受け取りに行った間に火事が起きた。「なんで、こんなもんのために」と自分を責め続けた。
2013年4月2日、留守中に自宅がほぼ全焼し、隣家の壁など約1平方メートルが延焼した。夫が火事を起こしたとされ、隣家に損害賠償を求めて訴えられた。
「暇になったら、ふたりで日本中を旅行しよう」。地図を買ったのは、夫が化学薬品メーカーの営業マンだった頃からの夫婦の約束を果たすためだった。
ダンスが趣味で、おしゃれで優しい夫を「スーパーマン」と自慢に思っていた。ひとり息子を大切に育て、家も買った。夫の様子が変わり始めたのは火事の3年ほど前。おかしなことを口にしたり、トイレの失敗をしたり。不安に押しつぶされそうだった時、広告で道路地図を見た。「私が運転すれば、今ならまだ行ける」。無性にほしくなり、通信販売で注文した。
火事の日は、夫を朝から病院に連れて行き、帰宅して薬を飲ませた。外出中に来ていた郵便局の不在通知を見つけて、「地図が届いた」と心が弾んだ。声をかけると、夫はテレビを見ながら「行っといで」と答えた。穏やかな夕方。だが、地図の包みを手に家に戻ると、一変していた。
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朝日新聞社会部
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