IoTのストーリーをどのように描くか--ベンダー座談会(2)

山田竜司 (編集部) 吉澤亨史 怒賀新也 (編集部) 2016年02月23日 07時00分

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 ビジネスにIoT(モノのインターネット)を取り入れようとする企業が増えている。IoTを事業に生かすためには技術的、組織的、経営的な課題が多くあるのが現状だ。IoTに関わるベンダー6社が集まり、課題に向き合っているか座談会を開催した。(第1回

 参加したのは、日本アイ・ビー・エム株式会社 IoT事業統括 兼 グローバル・ビジネス・サービス事業本部 IoTサービス事業 事業部長 村澤賢一氏、株式会社NTTデータ 第一公共事業本部 e-コミュニティ事業部 企画統括部長 古田正雄氏、富士通株式会社 ネットワークサービス事業本部 IoTビジネス推進室 シニアディレクター 大澤達蔵氏、MathWorks インダストリーマーケティング部 マネージャー 阿部悟氏、シスコシステムズ合同会社 IoEイノベーションセンター シニアマネージャー 今井俊宏氏、日立製作所 スマートビジネス本部 O&Mクラウドサービス事業推進センタ センタ長 藤城孝宏氏の6人。

売り切りでは分からなかったことが分かる

――IoTに対する顧客の感触は。

村澤氏 IoTの643戦略という話をさせていただきましたが、6つのユースケースのうち、大きく前半の2つ、つながる車と製造業の現場でのIoT活用領域と、それ以外のより生活や人々の活動に密着した領域では、取り組みの状況が社内でも異なります。

 前者の2つに関しては、ある程度顧客がついている状況も踏まえて、コンサルティングやシステムインテグレート(SI)の仕事が始まっています。後者は、サービスや事業モデルをどのような立場で提供できるのか。また、領域を越えた場合にモデルとして成立するのかを議論している最中です。


日本アイ・ビー・エム株式会社 IoT事業統括 兼 グローバル・ビジネス・サービス事業本部 IoTサービス事業 事業部長 村澤賢一氏
PwC コンサルティング、および日本アイ・ビー・エムにて、システム導入/プロセス変革/戦略と多岐に亘るコンサルティング実務に従事。通信 メディア・エンタテインメント/流通/製造など、幅広い業界のお客様を支援。2011年からは、事業責任を持ち、組織を担当。最近は、IoT技術領域を軸とする新事業の立上げと推進を担当。

 さらに、商材がどのレベルなのか、場合によっては基礎技術として何が提供できるのか――。施行錯誤しながらいち早くこういった製品やサービス、お金がもらえる形に持ち込むことを今やっています。

 前者の領域が例えば、自動車業界でエンジンブロックの鋳造プロセスというと、素材を溶かして型に流し込み、冷やして検査して、組み込んでいくという一連の流れのイメージが涌くと思います。ここの検査というのは、冷却する段階でさまざまな要因によって内部に気泡ができたり、クラックが入ることから、すべての製品にX線検査をしていました。

 そこに新たな取り組みとして、各所に温度センサを取り付け、冷却時の温度低下を追いかけて冷却が成功したかどうかをセンサリングデータからスコアリングしていくようなプロセスを製造工程に組み込み、そのチェックをラインごとに実施することをしました。

 歩留まりの悪いラインは検査に回すまでもなく溶かして再利用、いいラインは通過、中間のラインは検査を集中というように、緑・黄・赤とスコア別に分けて、黄色のところだけ徹底的に検査をする形に変える。するとまず、全量検査プロセスというのが大きく圧縮され、トータルの手間も圧縮されます。

 マニュファクチャリングの中でもフォーカスして地道に対策することで、年間億単位のコスト削減が予測される規模の改善です。こういうところにまずは実践編として、業界に特化して縦軸で深掘りをし、本当に価値が出そうかを試して、それを全体箇所につなげる営みが、自動車業界では始まっています。

 今ある製品やサービスにIoTをどう適用するかという話もあります。生まれてくる製品もデジタル世界でつながることを前提であり、関連するサービスもそれを前提としたものに組み変えられるでしょう。これをどれぐらい速いサイクルで回していくかが問われます。

 自動車業界、会社、OEMメーカーでは、"売り切り”というビジネスモデルだったこともありだったこともあり、R&D(研究開発部門)が最終利用状況など今まで売った先について分からなかったといいます。それらの企業に対し、IBMは顧客の利用状況などを「IoT Foundation」で、クラウドにデータを集めて解析して活用する、ビジュアライズして使う基盤を作っています。

 R&Dの担当へつないでいくようなデータの活用方式を業務に組み込み、研究者がおもしろがってデータを利用しながら、自身の手元の活動に展開していく。こういう情報のリンクをつけていくような取り組みがまだまだアイデアベースですが始まっています。

 導入企業の感触は、製造業のシナリオで考えると情報として取得したい領域は非常に大きい。Internet of Thingsといいながら実態は実態は“Intranet of Things(モノのイントラネット)”のような、巨大な経営規模の中でどれだけ活用のレベルを上げられるのかが製造業の心臓部分については大事な議論だと考えます。

 顧客はIoT領域の中でわれわれはこの部分で事業をすすめるというポジション明確に取り、より(データやシステムを)オープンにすることで自分たちの事業がデジタル化されていき、IoTを前提とした製品やサービスになっていく――。このイメージを明確に持っています。周辺の事業者もそういう世界になることを前提に、どれだけ自分たちの(開発やビジネスの)状況をオープンにしていき、つながりやすくするのかをイメージしています。一方で秘匿したい部分に対しては、徹底的にセキュアにやりたい。このバランスや順番をどうするのか。

 製造業を中心に具体的な議論や取り組みは増えていると思いますし、一歩も二歩も先に進めるような雰囲気や事例は整ってきているように感じます。

 ただ、“Internet of Everything”という観点でいくと、人もモノも全部つながっていく世界観であり、マネタイズや具体的なサービス価値作りを議論して、広める必要があります。事業者はいろいろなアイディアが出ながら、まず最初の一歩が踏み出せないというような方も結構いらっしゃる。そのあたりをどのように取り崩していくかというのも、こういう領域でICTのサービスを提供するエンタープライズ部門の企業のひとつのテーマと思っています。

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