私は退職しました。

定年後も非常勤の仕事を細々と続けられると思っていた予測に反して、サルコペニア(筋肉減衰症)で通勤が困難になったからです。

あとは、年金と、貯蓄の取り崩しだけ。

家計のことを考えたら、今さら保険適応外の特殊診療で「男性ホルモン補充」などやってもらえる身ではありません。妻にもすべて告白し、「そんな無駄遣いはもってのほか」と宣告されてしまっています。

わたくし名義の銀行預金はある程度ありますが、その管理権はすべて妻に「差し押さえ」されてしまいました。

「医療を受けるなら、保険適応の範囲内で」と宣告されています。

でも、ホルモンで「うつ病」を発症したうえに、精巣摘出まで受けてしまっている私に、対応してくれるような保険医療はありません。

思い出すと、あの「自分もGIDではないか」と思った初年度に、妻と話し合って、過度なダイエットや、婦人服を無理しても着てみようなどという冒険だけはしないことにして、自分の性別違和感は、適当に健全な方法で緩和・発散するという線を選んでいれば、こんなことにはならなかったでしょう。

ネット上で質問箱に質問を出してみたところ、本物のGID(MtF)で大学病院の管理下にホルモン投与とSRS(性別適合手術)を受けた当事者から、「あなたの自己責任の範囲のことを言い逃れするな」というぐらいの厳しい回答をもらいました。

家庭への責任を優先すべきときに、いったい私は何をやっていたのかと、悔やまれてなりません。
息子はなんとか自立していますが、娘はまともな稼ぎがない契約社員。その娘に、私が倒れたからといって「介護を頼む」とは言えません。娘から言われました。「あとはただ死ぬだけ」などと言っている人にかぎって、自分の「死」に他人を巻き込み、他人のエネルギーを吸い取るのだ……そんな親であってくれるな、と。

「うつ病」も治らないまま悪化し、不眠も深刻です。知力も極度に落ち、認知症の一歩手前です。「うつ病」治療に通っていたクリニックも、電車で行かねばならない距離なので、早晩通院不可能になります。

介護施設に入所できるだけの資金もありません。

今住んでいる場所の家と土地を処分すれば、多少のお金にはなるでしょうが、家を解体して土地を更地にするだけでも、何百万とお金が出て行くから、残る土地代のうち、生かせる部分は少しです。

私の人生は、考えてみるに、よりによって選んだ「破滅」でした。

人生の土壇場になって、カトリックの教会で教えられた「家庭に関する教え」が、正しかったと、はじめて気づくという愚かさ。ああ、その教会も、電車で行かねばならない距離だから、もう行けませんね。

夫婦になった以上、相手にかくれてこそこそと事を進めるような行為は、何であれ、慎むべきでした。妻にも本当に迷惑のかけどおしの人生。今になってその妻自体が、かなり身体が弱っており、いつ倒れるともしれぬ中で、雑なお料理しか作れない毎日。栄養管理で豊かな老後をなんて、とんでもありません。

私の父は、資産家というほどではないが、少なくとも今のこの家を残してくれて相続税も払えるように配慮したうえで84歳で他界しました。私は、その恩を食いつぶして、60代後半で破滅です。

思い出すに、小さなころから、親には心配のかけどおしの子でした、私は。
その私が、いちおうは社会的な地位を得たのだから、定年までそつなく勤めたうえで余力を残して老後を送るという人生設計をするべきでした。そういう人生設計は、遅くとも50歳ぐらいから考えておかないといけません。息子も娘も、自立させたうえで、です。

ところが50歳ごろの私は、「まだまだ、自分のやりたいことをするんだ。人生これからだ」などと思っていました。そして選んだ道が最悪の「心身を害する」道。

本当に、本当に申し上げておきます。
たんなる「憧れ」程度の動機で、女性化願望を現実にするなんて、もってのほかのことです。

世の中にはごくまれに本物のGIDの人はいますが、そういう人からみれば、私のような者こそが、迷惑な人間。

「ふーん、GIDか。自分もそれじゃないかな?」と思い込んだ程度で、身体に影響を与えるホルモン剤を貼付するなんて、みずから毒を飲んでいたようなものですね。

妻にも息子にも娘にも「詫びたい」気持ちはあるのですが、詫びて赦してもらえるような話じゃありません。