顧客の成功が
自社の長期的な成功になる
「顧客第一」を掲げる企業は多いが、自社の都合よりどこまで優先できるかが問われる。まさにこの言葉を標榜するセールスフォース・ドットコムは、顧客の成功をどのように自社の成長に結びつけていこうとしているのか(構成・新田匡央、写真・赤木真二)。
編集部(以下色文字):セールスフォースは、ビジネスを進めるうえで顧客の成功を前面に押し出されていらっしゃいます。これは、創業以来の考え方なのですか。
キース・ブロック(Keith Block)
セールスフォース・ドットコム副会長兼社長兼COO
副会長兼社長兼COOとしてグローバルセールス、カスタマーサポート、コンサルティングサービス他の部門を含め、顧客に面しているすべての業務を統括。米コンコード美術館理事会メンバー、カーネギーメロン大学ハインツ・カレッジ顧問委員会メンバー、カーネギーメロン大学客員評議会メンバーも務める。カーネギーメロン大学で科学修士号(経営および政策分析)および学士号(情報システム)を取得。
キース・ブロック(以下略):セールスフォースはお客さまを第一に考え、お客さまを大切にし、顧客サービスを徹底しています。そのことに関して、3つの重要な点があると考えています。ひとつは、新しいテクノロジーモデルの構築です。クラウドを単なるインフラとしてではなく、顧客毎のビジネスに対応するためのイノベーションを提供するプラットホームと捉えています。ふたつ目は、新しいビジネスモデルの構築です。イノベーションによって顧客の変革をお手伝いし、その変革によって顧客が成功することがセールスフォースの原動力にもなっています。3つ目は、顧客からアドバイザーとして認めていただくことです。そのためにも、新しい社会貢献モデルが重要だと考えています。これらすべてに関わる重要な点が、顧客からの信頼です。
セールスフォースはクラウドを提供している以上、クラウド上のテクノロジーを顧客に信頼していただかないと始まりません。顧客の大事なデータを運用させていただく以上、そこに強固な信頼関係が必要であることは明白です。クラウドにはセキュリティが欠かせないことを考えると、これを担保することが顧客からの信頼に直結するのは明らかです。さらに、セールスフォースでは顧客の成功を第一に考えたモデルを構築し、それを実行するように心がけています。ここで成果を上げることが顧客にメリットを与え、それが信頼につながるからです。こうした考えは、セールスフォースの創業当時からまったく変わっていません。
「カスタマーファースト」というワードは、どの会社もお題目のように唱えます。そのなかでセールスフォースが真の意味で顧客から信頼されるようになったのは、どのようなポイントがカギになったのでしょうか。
創業当時、セールスフォースにはたったひとつの製品しかありませんでした。それ以来、さまざまな製品を提供し続けてきましたが、そのコンセプトは「どうすれば顧客が成功することができるか」という一点に尽きます。
たとえば、クラウドの環境を使うことで成功した顧客がいたら、同じクラウドの環境を別の顧客に使っていただくことで、同じ成功を手にすることができます。真の成功モデルを提供し続けていくことで、顧客からの信頼を得られるようになったのです。信頼を得られたことで、多くの顧客にセールスフォースのクラウドを採用していただけるようになりました。成功モデルがさらに積み上がっていくことで、顧客に提供できる価値もさらに積み上がっていきました。信頼と成功がいい循環を生み出し、高いレベルで顧客の成功を支援することができるようになったのです。この成長は、セールスフォース自身の成長がベースにあるのはもちろんですが、パートナーとともに構築したエコシステムによっても拡大しています。
こう考えていただければいいのではないでしょうか。顧客からの信頼は、セールスフォースという会社の身体の一部になっているということです。ほかの企業が顧客の成功を中心に考えた事業を展開するには、彼ら自身が変革を起こさなければなりません。しかし、セールスフォースには変革は不要です。もともと顧客の成功を支援することをDNAに組み込んだうえで成長してきた会社だからです。
将来のセールスフォースも、顧客の信頼を得ることができると考えています。顧客も、自身の顧客に新たなカスタマーエクスペリエンスを提供しなければ生き残れない時代になっています。IoTやアナリティクスなど、新たなカスタマーエクスペリエンスを生み出すための基盤が必要になったということです。その点についても、セールスフォースは顧客からアドバイスを求められています。これこそが信頼されている証であり、期待に応えることでさらに信頼を獲得できると考えるからです。
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