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欧州の難民規制 統合の土台は崩さずに

 欧州各国が、中東や北アフリカからの難民流入を規制し始めた。戦後欧州が規範としてきた人道主義は、受け入れ能力が追いつかない現実を前に大きな危機に直面している。

     反移民を掲げる極右勢力の台頭など各国の国内事情を考えれば、混乱を防ぐための一時的な規制は理解できる。だが各国が一方的な防衛策を取り続ければ、欧州統合の土台が揺らぎかねない。協調して取り組める対策作りを急いでほしい。

     欧州連合(EU)加盟国は英国など一部を除いて「シェンゲン協定」に加盟している。加盟国間では国境審査なく移動の自由が保障される、統合欧州の象徴ともいえる取り決めだ。しかし、昨年来の急速な難民の流入やテロ事件を受けて、ドイツ、フランス、オーストリア、北欧諸国などが国境での出入国審査を復活させた。あくまで一時的な措置だが、このまま延長を重ねれば協定が有名無実化する恐れもある。

     昨年非合法に欧州入りした難民や移民は約110万人で、今年もすでに8万人を超えたという。暖かくなる春からさらに増えるとみられ、各国は国境審査の厳格化に加えて、難民の渡航を思いとどまらせようとさまざまな対策を打ち出している。

     デンマークは、1万デンマーククローネ(約17万円)相当を超える金品を持つ難民申請者から超過分を徴収して滞在経費にあてる法律を採択した。オーストリアは難民申請の受け付けを1日80人までに限定した。

     ドイツでも、難民受け入れに寛大なメルケル首相への批判が強まっている。昨年末にケルンで起きた女性暴行事件に難民申請者が関与していたことも懸念に拍車をかけた。このため重大犯罪を起こした難民の強制送還や、北アフリカのモロッコ、アルジェリア、チュニジアを「安全な送り出し国」としてその出身者は難民と認めない措置を打ち出した。

     ポーランドやハンガリーなど東欧諸国は、多くの難民が到着するギリシャと周辺国との国境を封鎖するよう迫り、難民受け入れには強硬に反対している。受け入れ人数を各国に割り当てるドイツやEU首脳の提案も拒否し、先週のEU首脳会議でも対立は解けなかった。背景には、移民を受け入れてきた多文化主義の西欧諸国と、こうした歴史的経験に乏しい東欧諸国との違いがある。

     一部の有志国が先行して難民割り当てを受け入れ、徐々に他国に広げていく案も議論されている。欧州の「二層化」を招くという批判もあるが、各国の実情に合わせて負担を分かち合う仕組み作りは必要だ。

     各国は対立を克服して戦後の平和を築いてきた欧州の歴史を思い起こし、合意形成を進めてほしい。

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