衆院選挙改革 答申を骨抜きにするな
毎日新聞
衆院選挙制度改革に関する衆院議長の諮問機関の答申を受けた与野党協議が本格化する。だが、鍵を握る自民党は定数10削減を先送りしない方針に転じたものの、その主張は答申とは大きな隔たりがある。これでは与野党はなかなかまとまらない。
自民党は定数削減を2020年以降に先送りする方針を示してきた。しかし、安倍晋三首相が先の衆院予算委員会で削減時期を前倒しする考えを表明。これを受けて同党は、近く発表される15年の簡易国勢調査に基づいて、小選挙区の区割りを見直し、定数を小選挙区で6、比例代表で4減らす−−との見解を22日、大島理森議長に伝えた。
先送りに対する国民や野党の批判を恐れた安倍首相が党側を説得して方針転換した形だ。
「定数10削減」は答申と数は同じである。ただし、答申の一番の柱は「アダムズ方式」という仕組みを導入し、10年ごとの大規模国勢調査結果に基づいて都道府県単位の定数配分を見直すよう求めている点だ。今の制度より人口比が反映されやすく、将来にわたって「1票の格差」是正を目指す案だといっていい。
この方式を使って10年の国勢調査で計算した場合、都道府県ごとの定数は東京都で3増、4県で各1増となる一方、13県で各1減となる。これが答申でいう「7増13減」案だ。
これに対して自民党は答申通り「アダムズ方式」を採用するのは20年以降に先送りし、当面、定数増はゼロとして、議員1人当たりの人口が少ない県を対象に小選挙区を6減らす(0増6減)考えだ。
削減に関係する議員は自民党が圧倒的に多い。アダムズ方式に消極的なのは調整が難航しそうな選挙区を少しでも減らしたいとの党内事情があるからだろう。だが、これでは答申を尊重しているとは到底言えず、むしろ答申を骨抜きにするものだ。
同じ与党の公明党は「アダムズ方式」の採用に賛成しており、民主党と維新の党は「アダムズ方式は答申の根幹だ」と強調して、答申の全面的な受け入れを表明している。一方、共産党は定数削減に反対し、比例代表中心の制度を求めている。
もちろん、選挙制度や定数に関する各党の意見は元々、異なる。しかし、これまで与野党で協議を重ねてもまとまらなかったから安倍首相は第三者機関の設置を提案し、「その答申を尊重する」と国会で繰り返してきたのではなかったか。
自民党内には「0増6減」にも反対する議員が多く、党内をまとめるのはこれからだという。だが、これまでの経過を踏まえれば、答申通りに与野党協議をリードすることこそ、自民党の責任だ。