アニメもライブに向いていく。「亜人」ポリゴン・ピクチュアズ塩田周三氏インタビュー

2016.02.22 22:30
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「全編CGのポリゴンアニメってなんか動きが軽いよね」と言われていたのは、もう昔のこと。現代の3D CGアニメは密度感といい重量感といいアクターの演技力といい、視聴者のハートにズシンとくるリアリティがあるんですよ。

例えば2014年4月から放映された「シドニアの騎士」は、本格的なロボットの戦闘シーンが人気となりました。登場人物の描き方も評価高し。原作・弐瓶勉さんのトーンに近しい雰囲気でまとまっており、原作ファンからの支持も高かった作品です。



そして昨年末に劇場で公開され、TV版の放映がはじまった「亜人」も、3D CGアニメの進化を見ることができる作品。主人公・永井圭のシニカルな態度や目線が、よくぞフルポリゴンで表現できるなあと感嘆してしまいました。友人・海斗の操るバイクの動きもリアリティたっぷり。コーナーでバンクさせているときの重力が見えるかのように、極々自然なんですよね。



3D CGにキャラクターの魂を込められるようになった現代。その作り手はいったい何を考えて、模索して、形にして、アニメビジネスに取り組んでいるのでしょうか。「シドニアの騎士」および「亜人」の2作品を作り、CG技術の国際学会SIGGRAPH Asia 2015コンピュータ・アニメーション・フェスティバルでチェアを務めたポリゴン・ピクチュアズ代表取締役社長の塩田周三さんにお話を聞きました。


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ギズモード(以下ギズ) 塩田さんはこれまでさまざまな作品を手がけてこられましたが、アニメ作りにおいて苦労していることはなんでしょうか。


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塩田周三さん(以下塩田) 日本のアニメってすごく歪なマーケットなんですよね。

日本のアニメは年間1,200時間とか作るんですけど、大体が深夜枠にあるわけですよ。そのすごくニッチなマーケットに対して、ニッチな人たちがキュンとくるものを作るんですね。なぜかというと、ほとんどがブルーレイソフトの収益からリクープするという構造だからです。かなりマーケットにおもんばかって作ることになる。でもそれだとなかなか新しい表現にチャレンジできないという問題があるんです。

例えばCGだって、アニメに使われるようになってから視聴者に「いいじゃん」と言われはじめたのって2年前くらいですから。それまではだいたい「ぬるっと動く」とか「人形っぽい」とか言われていたんです。つまりCGを使うだけでディスられていたわけですよ。宮崎駿さんのような方が、CGガツンといれてこんなことをやりたいんだ!といえばできるんでしょうけど…なかなか難しいですよ(笑)

ギズ 新しい表現を目指す場としての、サブスクリプションサービスって作り手の方からするとどのようにお考えでしょうか? 例えば、NetflixやApple Musicなどが流行ってきていますよね。

塩田 すごく大きな可能性があると思っています。世界中に散らばっているニッチなアニメファン層は、海賊版で助け合うという互助組織ができているのが実情です。けれどサブスクリプションのストリーミング媒体があれば、オフィシャルで提供できるようになる。

しかもNetflixのような大きな資本が参入してくると余裕がでるんです。ある意味、素のまま流せるんですよ。その国の放送コードなんかが関係なくなってしまうので。

そうするとコンテンツを作っている日本としては、多言語化するという宿題さえクリアすればいい。だから、Netflixはポテンシャルとして大きいと考えています。

ギズ まだあまり有名ではないクリエイターの作品、例えば今回のSIGGRAPH Aisaで発表されたようなコンピュータ・アニメーション・フェスティバルの短編映像作品たちにとっても飛躍の場となりえるでしょうか?


SIGGRAPH Aisa 2015 Computer Animation Festival Trailer


塩田 こういった短編は、アテンションスパンが短いのはいいことではあるんだけれども、やはり継続性がないじゃないですか。アーティストが作品をぽんぽん作れたらいいけども、作るのには時間がかかる。似たような短編とか、同じような短編が集まっていて、ひたすら短編を観て満足するというシステムがあればいいかもしれませんけど。やはり1人1人のクリエイターにとって救いになるかというと、それはまた難しいですね。

ギズ 「アテンション」というお話がありましたが、簡単に途中で観るのをやめてしまう、という状況はサブスクリプションサービスでは起こりがちですよね。そういったコンテンツつまみ食い状態を、どう思っていらっしゃいますか?

塩田 作り手としては「はい、アニメーション作りました」で終わりではもうあかんと。やはりお金を出してくれるところに引き連れていくしかないんです

日本はそのマーケティングに関しては、少なくともアニメについてはうまいと思うんですよ。だって新しい番組、たとえばうちだと「シドニアの騎士」をやってましたと。そこで宇宙最速上映会といって声優さんを呼んだりすると、600人のチケットが3分とかで完売するわけですよ。

ファンにとってはアニメを最速で観るというのもそうだけれども、声優さんというプロダクト、アニメというプロダクト、音楽というプロダクト3つを享受する場というのがライブな空間なんですよね。そこですごく高いTシャツとかオーバープライスのブルーレイとかを勢いで買うわけですよね。僕はこれがまさにどんなビジネスもそうなっていくと思います。


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「多言語化すれば、海外展開しているストリーミングサービスに参戦できる」といったことは目からウロコ。蔓延している海賊版対策にもなるということにも深くうなずきました。同時にアニメのライブ上映会がもたらすビジネスの拡張性は、ストリーミングサービスと共存する新たなチャンスであるとも学びました。

各ストリーミングサービスの企業は従来の人気コンテンツのみならず、独自コンテンツを作る方向にも舵を切っています。それがSIGGRAPHのコンピューター・アニメーション・フェスティバルで受賞するような作品をキャッチアップするという流れに繋がるのであれば、僕らの視聴スタイルはさらに大きく変貌するかも。古き新宿TSUTAYAのVHSコーナーのように、レアでニッチだけれども価値あるソフトを置いてくれるようになってほしいものですね。


source: SIGGRAPH Asia 2015

(取材/斎藤真琴、執筆/武者良太、吉岡孝太)

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