戦略論のバイブル『君主論』。
実はとても読みやすい一冊なので、「読みづらさ」から古典を敬遠している人は『君主論』からはじめてはどうだろう。
《目次》
チェーザレ・ボルジアとニッコロ・マキアヴェリ
世間でヴァレンティーノ公と呼ばれるチェーザレ・ボルジアは、父親の運に恵まれて国を獲得し、またその運に見放されて国を失った。ただし、ボルジアは、思慮があり手腕のある男としてとるべき策をことごとく使って、みずから力の限りをつくした。
本著ではじめにチェーザレ・ボルジアが登場するところだ。
フィレンツェの外交官だった『君主論』の著者ニッコロ・マキアヴェリは、祖国を脅威にさらす東国の軍人チェーザレ・ボルジアの動静を調べるために彼のもとに遣わされた。これが史実としての、マキアヴェリとボルジアの初接触だ。
マキアヴェリはボルジアに理想の君主像を見出す。その一方で、この文章にも垣間見えるように、同郷の市民を惨殺し、仲間を裏切り、慈悲や宗教心を持ち合わせないこの男を「君主の徳などない」と批判もしている。
チェーザレ・ボルジア
イタリア ルネサンス期の軍人、政治家。横顔は池田廉訳『新訳 君主論』の表紙の通りだが、斜め顔も。
ニッコロ・マキアヴェリ
イタリア ルネサンス期の政治思想家、フィレンツェ共和国の外交官。
題材は「チェーザレ・ボルジアだけ」ではない
『君主論』のことを「チェーザレ・ボルジアの非情な思想を描いた戦略本」だと思っていないだろうか。
確かにボルジアがメインだが、半分不正解だ。『君主論』はボルジア以外にも、ローマ帝国のカエサルやマルクス帝、マクシミヌス帝、スパルタの王ナビス、マケドニアのフィリップス、コンスタンティノープルのヨハンネス六世から、『旧約聖書』に出てくるペリシテのゴリアテと戦ったダヴィデ、モーセなど神話までカバーした数多くの歴史をひも解いた戦略本なのである。モーセなどについては「神に導かれたとところはあるが」などと冷静な注釈も入れている。
ボルジアはマキアヴェリにとって、戦略論を語る上での直近のロールモデルだったに過ぎない。
マキアヴェリの洞察力の謎
この男の行動と能力をふり返ってみると、運に起因するところがなく、またあったとしても、それがごくわずかなのが知れよう。
ボルジアについての肯定的な記載だ。
『君主論』を読むとマキアヴェリはとても現代的でロジカルな考え方の人物だったことがわかる。古典なのにサクサク読めるのは自分の主張を大まかに分類したあとに「第一に」「第二に」と、箇条書きのように文章が構成されているからだ。最近のビジネス書のようだ。
このように極めて実利的な性格だったからこそ、運に頼らず淡々と自らのロジックに従って大胆に動くボルジアに理想をみたのだろう。
ボルジアを例にした「苦痛は一気に与える」「恩恵は小出しにする」などの考察は、現代の行動科学を理解していたのかと思わせるほど。科学的な実験で証明しなくとも(当時はその方法論はなかった)、数々の歴史から原則を察しているのだ。
本著にはライオンや狐などの動物を使った動物行動学的な考察もいたるところにある。
科学が発展していなかった当時は、むしろ現代より身近であった「自然」や神話も含めた「歴史」から学ぶ感性が研ぎすまされていたのだろう。
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