「時代を変える天才を育てる」:音楽プロデューサー福嶋麻衣子(もふくちゃん)×ネットレーベル"マルチネ"tomad

2016.02.22 10:00

東京芸術大学卒業後、でんぱ組.inc、PUFFY、LADY BABYなど様々なアーティストのサウンドプロデュースを行い、現在は虹のコンキスタドールなどアイドルを多く手掛けているもふくちゃんこと福嶋麻衣子氏と、tofubeatsやbanvoxなどの人気アーティストを輩出してきたマルチネレコーズ創設者tomad氏対談。
前編「インターネット発アイドル&レーベル プロデュース論:福嶋麻衣子(a. k. a. もふくちゃん)×マルチネレコーズtomad」ではふたりの出会いに始まり、アイドル論、アーティストとアイドルをプロデュースする時の違いを伺った。後編となる今回は、インターネットと音楽の関係性、大衆にヒットするアーティスト・アイドル生み出すコツ、そして教育論まで深く話を伺っていく。

■譲れないのは「タイミング」と「驚き」

ーー自分の中で「これは譲れない」と思っていることはありますか。

音楽プロデューサー・もふくちゃん

tomad:
インターネットの音楽は、1ヶ月くらいでトレンドが変わってしまうんです。風がいろんな方向から吹き荒れる環境で、その風にいかに上手く乗って楽曲をリリースするのか、その「タイミングを見極めること」は重要だと思っています。なので、よく周りの人のツイッターなどのSNSはチェックしています。
もふく:
ちゃん
tomad君はずっとインターネット見てますよね、時代を読む力がすごいです。私もタイミングは大切にしていますが、同時に"驚き"も大事だと思っています。「このアイドルは、こういう方向性でいくんだろうな」と思われてるところに、変化球を投げる。人は驚くことが好きだと考えていて、その驚きをいかに提供するかを大切にしています。

ーー音楽プロデュースにおいて、インターネットを使うメリットは?

tomad:
一番のメリットは、好きに・自由に・できたその場で曲をリリースできることだと思います。でも、アーティスト本人が良いと思っていたものが、世間から良いと評価されるのかは別の話になってきてしまってそれをコントロールするのが難しいですね。ネットレーベルとしては、アーティストと対話しながら、楽曲やアートワークをより良い方向に持って持っていくことに気をつけています。
もふく:
ちゃん
インターネットがなかったら、若手クリエイターと知り合う機会がなかったと思います。若手ミュージシャンと旬の時代に一緒に仕事ができること、それがインターネットをやっていて良かったと思うポイントです。SoundCloudでも、ニコニコ動画でも、YouTubeでも、「この人面白い!」と思ったらすぐに連絡を取り、その人と一緒に仕事ができる可能性を提供してくれるのはインターネットのおかげです。

ーーインターネットとリアルで、使い分けていることはありますか?

もふく:
ちゃん
音楽は無料で聴くのが当たり前のインターネット時代に「お金を払ってでもその音楽が欲しい」と思ってもらえるモノをどのように作れるか?探っています。CDに限らず「どうしても手に入れて家に置きたいモノ」を作ることにチャレンジしたいです。それは誰でも手に入るようなモノではなく例えば世界に3個しかないレアな音源などかもしれません。
tomad:
でも、アイドルは、そういったイメージをモノに落とし込むことができる仕組みではないですか?
もふく:
ちゃん
そうですね。"接触"と呼ばれる握手会やライブなど、直接会えることに価値が生まれ始めてから久しいですね。YouTubeで無料のアイドル動画を見ていると「この子に会いたい」という渇望がどんどん湧いてくるわけです。だから、アイドルはどんどんインターネットを使ったほうが良い。自撮りにしろ、動画にしろ「この子に会いたい」をインターネット上で高めて、リアルの場でアイドル本人に会える感動をつくることが大事です。
tomad:
ネットの使い方が直接人気に結びついてくる時代になってきたってことですよね。
もふく:
ちゃん
そうそう。インスタグラムの写真の撮り方ひとつでもセンスがある子は、どんどん人気が出てますね。

■「自分が好きなものをつくる」「特定の誰かを頭のなかで妄想する」

ーーお二人がファン心理を掴むにあたり心がけていることを教えてください。

【左より】マルチネレコーズ・tomad氏、音楽プロデューサー・もふくちゃん

tomad:
僕の場合はあんまりファンのことを考えずに、自分がいかに納得できる良いものを作るかを重要視しています。そうしたら、ファンは自然とついてきてくれる。自分がモチベーションを高められないと、いいものはつくれないです。
もふく:
ちゃん
私も今までは大衆を意識していたんですけど、最近「大衆って何だろう?」と考えるようになって来ました。今tomad君が言っていたように「自分が好きなもの」をつくる、もしくは、特定の誰かを頭の中で想像して「この女の子だったら、こういう音楽が好きで、こういうファッションをしていて、こういうものが好きなんだろうな」と妄想し、その妄想上で作品を作るようにしています。最近思うのは意外と大衆は「尖っているものが好きなんじゃないかな」と。特定の誰かがものすごく驚くこと・好きなことを作り、それがだんだん拡がっていくスタイルがいいのかな、と思っています。

ーー現在どのようなプロジェクトを行っていますか?

tomad:
今年秋ごろに大き目のイベントを企画しています。そして3月にアメリカツアーをするので、その準備をしています。アメリカは、マルチネレコーズ的には今年あたりが新鮮で良い時期だろうなと考えてまして。あとはいつも通り、アーティストと楽曲のやり取りをしていたり新人アーティストの発掘をしています。
もふく:
ちゃん
私は最近、pixivとご一緒している「虹のコンキスタドール(虹コン)」というアイドルユニットのクリエイティブ・ディレクションをしています。虹コンは13~14歳の子もいるのですが、実はここまで若年層のアイドルと触れ合うのは初めてで未知の世界だったんですけど、とてもプロデュースしがいがありますね。女性は年齢によって本当に違う。
tomad:
男は年齢によってあんまり変わらない。
もふく:
ちゃん
(笑)。男性は淡々としてるんですかね、人生が。でも、女の子は本当に、1年1年で違う。そういう意味では、虹コンのプロデュースは子育てをしている感覚です。彼女達にアイドル論を語る前に「洋服はこうやってたたむのよ」とか生活を指導している状態なんです。でも、それが自分の生活を見つめ直すきっかけになって、虹コンを始めて規律正しく生活できるようになりました(笑)。

■時代を変える天才を育てるための、学校をつくりたい

ーープロデュースが一種の教育になっているんですね。

音楽プロデューサー・もふくちゃん

もふく:
ちゃん
そうなんです。最近、教育に興味が出てきて、30代のうちに学校をつくりたいと思っています。天才を育てたい。日本には天才教育があんまりないじゃないですか。小中高の学校のシステムを見ていると、どうしても足並みを揃える教育になってしまう。一方で、アメリカや中国はひとりの天才を育てるためにものすごい額の投資をする。私もひとりの天才を育てるための学校を30代のうちに創りたいと考えています。

天才はたったひとりでも時代を変えることができます。ですが、今の日本の教育のままだと何十年たってもそのひとりの天才を世に出せるかどうか疑問なんです。

虹コンに参加している若年層のアイドルを見ていると、この先どこにでも行けるような道が広がっていて、そんな可能性がある年齢で芽を潰さないことが、私にとってのアイドルプロデュースだと思っています。あと、とにかく不登校が多すぎますよね。絶対にその中には天才がいるじゃないですか。そういった子たちを発掘したいんですよね。
tomad:
学校に行っていなくても、家でずっと曲つくっている子とか。
もふく:
ちゃん
いますよね、そういう才能を持っている子。不登校だけど、才能のある子はいっぱいいると思います。そういった子たちをインターネットを通じて発掘していくことに興味があります。
tomad:
僕も、学校に馴染めなくてインターネットのコミュニティに入ってくる人はすごく多いと感じています。そして、そういう人たちを救い上げていきたい気持ちは常にあるけれども、ネットで何かアウトプットを出しているだけだと、よほど意志が強くなければ自分一人では続けていけない問題もあって。学校のようにサポートしてくれる機関があったら、素晴らしいですよね。
もふく:
ちゃん
虹コンの子たちを見てると、人生におけるトライ&エラーをあんまりやってきていないと思うことがあるんですね。その機会が、学校でほとんどなかったんだろうと思うんです。目立つ子にはいろんな役割が与えられて、部活やクラスの中でトライ&エラーができるじゃないですか。練習する、褒められる、試合に出る、失敗する、悔しい。そういう経験を全くしてない子は、実はすごく沢山いる。そういう子たちはどんどん心も弱くなるし、トライ&エラーを部活ではない何かでさせてあげられたらいいのになと思っています。

■やりたいのは「陽が当たらないところに光を当てる」こと

ーーでは、マルチネができてからの10年間で、世の中はどう変わったと思いますか?

tomad:
誰でも発信できるようになったのは、良くも悪くも大きく変わった部分だと思っていて、特にクリエイターやアイドルはネットを使って世の中に出てくれるようになって、僕はその良い部分をサポートしていきたい、手助けしていきたいと思っていますね。
もふく:
ちゃん
良い部分も、悪い部分もありますね。全員が発言して発表できる場が無料になったのはすごい革命だと思うし、自分自身もネットがなかったらこういう職業に就けなかったと思うんです。下積みとして著名プロデューサーに弟子に就かなければいけなかったかもしれないのに、インターネットがあったおかげで、若い時からいろんな仕事を任せてもらえた。それがこの10年でインターネットによって変わったこと。持たざる者が持てるようになった。
tomad:
誰しも平等に、同じ環境が与えられて。スタートラインも同じなんです。でも、まわりを見渡しやすくなった分、それがプレッシャーになることもありますよね。例えば曲をつくっている時に他人を気にしすぎて、自分の良さを出せないこともある。アイドルでも、他のグループが気になってしまうことがありますね。
もふく:
ちゃん
そうそう。エゴサ(エゴサーチ)して余計にプレッシャーを感じることもあるみたいだし(笑)。

ーーおふたりにとって、テクノロジーとは?

tomad:
妄想や、考えていることを実現できるようにしてくれるツールですね。テクノロジーによって色んな人と知り合えて、新しいアウトプットができるようになった。その恩恵を大きく受けている立場だなと思っています。
もふく:
ちゃん
もともとやりたいことがあって、それに最適なものを選んだら、それがインターネットだったんです。その時自分が一番やりたいことを叶えてくれるテクノロジーを選ぶ力がある人は成功すると思っているので、自分の中ではテクノロジーは、やりたいことを最適化してくれるツールです。

ーー最後に、これからどういうことにチャレンジしていきたいですか?

tomad:
常に楽しんでいたいですね。その結果として、いい楽曲ができたり、いいイベントを主宰できたり、「時代を切り抜けるモノ」が提示できたら良いと考えています。
もふく:
ちゃん
自分がいつもやりたいと思っているのは、陽が当たっていないところに行って、光を当てる。「余計なお世話」な仕事なんです(笑)。教育を受けられなかった子たちであったり、いい才能があるのに潰れてしまいそうな子であったり、そういったところに光を当てて世の中を良くしていきたいのが、自分のモチベーションとしてありますね。

「陽が当たらないところに光を当てる」インターネットの特性を駆使し、数々のアーティストやアイドルをプロデュースしてきた、音楽プロデューサー・もくふちゃんと、マルチネレコーズ・tomad氏。インターネットやテクノロジーの進化とともに、どのような表現が生まれ、それが新しい文化に昇華されていくのか。ふたりが世の中に問う「新しい音楽」そして「新しい才能の発掘方法」をSENSORSでも引き続き注目し、学び続けていきたいと考える。

構成:岡田弘太郎

1994年生まれ。『SENSORS』や『greenz.jp』で執筆の他、複数の媒体で編集に携わる。慶應義塾大学在籍中で、大学ではデザイン思考を専攻。主な取材領域は、音楽、デザイン、編集、スタートアップなど。趣味は音楽鑑賞とDJ。

編集:西村真里子

SENSORS.jp 編集長
国際基督教大学(ICU)卒。IBMでエンジニア、Adobeにてマーケティングマネージャー、デジタルクリエイティブカンパニー(株)バスキュールにてプロデューサー従事後、2014年に株式会社HEART CATCH設立。 テクノロジー×クリエイティブ×マーケティングを強みにプロデュース業や執筆活動を行う。スタートアップ向けのデザイン&マーケティングアクセラレーションプログラム「HEART CATCH 2015」総合プロデューサー。 http://events.heartcatch.me/

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