これまでの放送
日本に先駆けて、マイナス金利を導入した、デンマーク。
金利がマイナスの住宅ローンも現れました。
お金を借りて、利息がもらえる、不思議な現象が起きています。
日銀 黒田東彦総裁
「マイナス金利付き量的・質的金融緩和を導入することを賛成多数で決定いたしました。」
日銀が、史上初めて導入を決めた、マイナス金利。
「上がった、上がった。」
発表直後、株価は大幅に上昇。
しかし、その後は世界経済の先行きへの不安から乱高下が続いています。
マイナス金利の影響は、住宅ローン、そして預金にも及び始めています。
「金利がマイナスって、どういう時代なんだろう。」
「私たちの生活にどういう影響がでてくるのか。」
異例のマイナス金利は、日本経済に何をもたらすのか考えます。
日銀が、マイナス金利を決定してから、下がり続けてきた長期金利。
「きた、ついた、マイナス。」
今月(2月)9日、初めてマイナスになりました。
これに連動して、住宅ローンの金利が、さらに下がるのではないか。
注文住宅のセミナーには、多くの人が訪れています。
セミナー 講師
「話題になりましたね。
マイナス金利ってなんだ。
結論から言いますと、皆さんに対して、有利に働く可能性が高いです。」
住宅の販売が伸び悩む中、不動産業界は、マイナス金利政策を追い風にしたいと考えています。
積水ハウス 武蔵小杉店 三井卓磨店長
「ご来場は増えてくることを期待しますが、マイナス金利のメリットをしっかり丁寧に、今後はご案内させていただきたい。」
マイナス金利政策は、金融機関の企業への融資にも影響を与えようとしています。
中小企業向けに資金を貸し出している、西武信用金庫です。
「日銀の当座預金の残高の推移です。」
これまで、日銀の当座預金に預けていた資金は、およそ900億円。
マイナス金利政策を受けて、そのうち300億円を引き出すことにしました。
どうすれば、この資金を収益に結び付けられるのか。
早速始めたのが、貸し出し先の掘り起こしです。
西武信用金庫 渋谷東支店 宇佐美大典支店長
「こんにちは、西武信金です。」
この日、担当者は、リハビリ施設を運営している会社を訪ねました。
新たな投資を考えているか、聞き取りを行うためです。
西武信用金庫 渋谷東支店 宇佐美大典支店長
「資金ニーズや金利に対する考え方を、お聞かせいただきたい。」
株式会社 ワイズ 早見泰弘会長
「(金利低下は)施設を拡大していくチャンスではないかと思っています。
(私たちのような)ベンチャーですと、金利負担、結構ばかにならない。」
金利を引き下げれば、貸し出し先をまだ増やせると、手応えを感じました。
しかし、貸し出し金利を下げると利ざやが縮小し、経営に影響が及びかねません。
この日、経営幹部の会議で貸し出し金利をどう見直すか、検討を行いました。
西武信用金庫 落合寛司理事長
「当金庫はどのように対応するか、忌憚(きたん)のない意見をいただきたいと思っております。」
「今までの通常に出しています。
金利の2分の1をまず考えていきたい。」
「収益に対する影響度、それはうちの利益で吸収はできるのか。」
議論の結果、日銀に預けていたお金のうち、270億円について、金利を半分に引き下げ、貸し出していくことを決めました。
西武信用金庫 落合寛司理事長
「競争力を高めていかなくてはいけなくて、ついて来れないところ(金融機関)はなくなることはあります。
一生懸命、努力はしているところ。」
今後、大手銀行なども、貸し出し金利を引き下げていくと見られます。
ただ、景気が停滞する中、資金を必要とする企業がどれだけあるのか、未知数です。
専門家の間で劇薬とも指摘される、マイナス金利。
日銀の金融政策決定会合では、賛成5人、反対4人と僅か1票差での決定でした。
マイナス金利 反対
“実体経済への効果の割に、市場機能や金融システムへの副作用が大きい。”
マイナス金利 反対
“金融機関と預金者の混乱や不安を高め、誤解を増幅するおそれがある。”
金融システムや、預金者への影響を懸念する反対意見も出されていたのです。
今、金融機関の間では、預金金利を引き下げる動きが相次いでいます。
預金量6兆円の新生銀行です。
今月1日、一部の定期預金で、0.3から0.35%だった金利を、0.06から0.1%に下げました。
収益環境の悪化が危惧される中、さらなる預金金利の引き下げの検討を迫られています。
「当行で取り扱っている、円定期預金の金利の見直し、円の仕組み預金等も見直しを行っていく必要があるかと思います。」
「引き下げ?」
「引き下げも含めて検討する必要があるのかなと思っております。」
この銀行は、預金以外の金融商品で、顧客をつなぎとめたいとしています。
新生銀行 清水哲郎執行役員
「預金の金利はこうだけど、投資信託や保険、いろいろな商品がございます。
我々として、どういったことが、お客様に提案できるのか、ここが非常に大事。」
さらに、私たちに身近な生命保険にも、影響が及ぶ可能性があります。
生命保険大手の日本生命です。
契約者から保険料として預かった資金を、国債などで運用しています。
日銀のマイナス金利導入で、国債の利回りが過去最低になりました。
今後、運用益が減少し、保険料の引き上げにつながる恐れが出ているのです。
この保険会社では、外資系証券会社の担当者から聞き取りを開始。
海外の債券など、ほかの運用先がないか探っています。
生命保険会社
「保険契約者のお金ですので、投資を将来まで控えるわけにはいきません。」
外資系証券会社
「利回りが下がっているのは、日本の国債だけではありません。
アメリカ国債の投資も難しくなっています。」
世界的に株安や低金利が広がる中、運用の環境は、ますます厳しくなっているといいます。
日本生命 財務企画部 佐藤和夫部長
「生命保険会社の使命を果たせなくなる可能性、懸念がある。
スピーディーに投資判断して、割安なタイミングで買えるか、巧拙、うまい下手が問われてくる時代になったのではないか。」
●日銀は3年余りにわたり、量的緩和・質的緩和を行ってきて、今回もそれを拡大するのであれば、80兆円の買い入れを90兆に増やすこともできたはずだが、なぜあえて、この劇薬と言われるマイナス金利に手を出した?
そうですね。
今おっしゃったように、年間80兆円の買い取りを、国債の買い取りをずっとやってきてるわけですけども、市場自体が、もう国債を買えるだけの流動性を持たなくなったということですね。
今、日銀の保有している国債の保有残高というのは、国債市場全体の3割にもなってきてます。
さらにここから、国債を買い続けていくと、今後、量的緩和に限界が見えるんじゃないかという考えが出てきたわけですね。
(限界というのは、買い入れる国債?)
買い入れる国債がなくなってくるということですね。
となると、80兆円を90兆円に増やしたところで、90兆円を100兆円に増やしたことで、あんまり市場はびっくりしないということです。
ですので今回、市場に対してサプライズを与えるという意味で、誰もが考えていなかったようなマイナス金利政策を導入したということになるかと思います。
●これまで行われてきた量的緩和の効果はどうだった?
量的緩和の効果というのは、欧州のほうでは、貸し出し金利が下がって、かなり貸し出しの伸びにもつながったわけですけれども、日本の場合は、なかなかマネーサプライが伸びず、貸し出しもあまり伸びずに、経済のところにプラスに働かなかったというのが、これまでの現状ですね。
(そしてインフレも限定的なレベルに終わっている?)
インフレも、ほとんど上がってきてないということですね。
目標が2%に対して、実際のコアインフレというのは、0%近辺ということで目標としてるところから、かなりかい離しているという形になります。
●現在、住宅投資は10~12月期の統計だとマイナスになっているが、マイナス金利によって、これから住宅ローンを借りようとしている人には有利な展開になる?
おっしゃるとおりですね。
(今後どうなる?)
そうですね。
この住宅投資は今後、回復してくると思います。
なぜかというと、住宅金利がこれからまだまだ下がってくる可能性があるからですね。
じゃあ、なぜ銀行は住宅金利を下げるかというと、やはり住宅ローンというのは、皆さん、あまりご存じないんですけれども、銀行にとっては、非常に利益率の高いビジネスなんです。
なぜ高いかというと、普通の企業とは違って、個人の場合は、なかなか潰れたりしないということと、あとは、担保として住宅を出すっていう形になりますので、安全性が高いんです。
ですので、少しの金利でも、もらえるということであれば、まだまだ住宅金利を下げてでも、住宅ローンビジネスを拡大していくというのが考えられますね。
●銀行の収益が低下して、体力が弱まるのではないかという懸念もある中、企業への貸し出しをどう見る?
企業への貸し出しは、あまり伸びないと思いますね。
理由は2つあります。
まず1つ目は、やはり、国内に貸し出しの需要がほとんどないということですね。
要するに、借りたいという人があまりいないということです。
(ベンチャーなどは?)
ベンチャーとか、おっしゃる通り、需要があるんですけれども、やっぱり、かなり高金利にしないと、貸してもらえないというところがあったり、今までの従来型の銀行というのは、なかなかベンチャーに投資しようというところまでいってないというところですね。
●定期預金の金利が下がることにより、家計消費のマイナスにつながるが、消費者に与えるマインドは?
少しマイナスには働くと思いますが、それほど大きな影響はないと思います。
これが例えば、今まで5%の預金金利をもらっていて、それが今後、0.2になると言ったら、みんなびっくりしますけれども、0.5%のやつが0.25%になるといっても、あまり影響はないと思います。
4年前、マイナス金利を導入した、デンマーク。
首都コペンハーゲンでは、ビルやマンションなどの建設ラッシュが起きています。
不動産会社オーナー
「これが典型的なマンションです。
寝室2部屋、リビング2部屋あります。」
売れ筋は、80平方メートルで6,000万円から7,000万円の物件。
販売して、1、2か月で売れてしまうといいます。
背景にあるのが、住宅ローン金利の低下。
中には、マイナスになるローンまで登場しています。
マイナス0.32%。
住宅ローンを組むと、マイナス金利の分だけ、逆に利息が手に入るというものです。
不動産会社オーナー
「通常だったら就職したばかりの若者には、マンションは買えなかったのですが、今は賃貸よりも買った方が安くなります。
市場がより多くの人に開かれているのです。」
需要の高まりで、コペンハーゲンのマンション価格は、この4年間で、およそ45%上昇。
あまりに急激な値上がりに、市民からは不満の声も出ています。
市民
「コペンハーゲンの価格はニューヨークと同じくらい高くなってしまった。
こんな価格では、一般の人は買えなくなっちゃうよ。」
デンマークの中央銀行の副総裁です。
景気を刺激する効果は出ているものの、このままでは、住宅バブルという副作用が出かねないと懸念しています。
デンマーク国立銀行 ペア・カレセン副総裁
「デンマークの住宅ローン金利が下がり、それによって貸し出しは増えました。
しかし不動産や株式投資における、バブルを警戒しなければなりません。」
去年(2015年)、0.75%までマイナス金利を拡大した、スイス。
多くの銀行の収益が悪化し、預金者にしわ寄せが出始めています。
ついに、個人の預金金利をマイナスにする銀行も現れました。
およそ3万人の預金者を抱える、この銀行。
当座預金の金利を、先月(1月)マイナス0.125%に引き下げたのです。
例えば、銀行に100万円を預けると、預金者は1年に1,250円を支払うことになります。
この銀行は、スイスの中央銀行がマイナス金利を導入したことで、収益が悪化。
損失を補填(ほてん)するため、預金金利をマイナスにせざるを得なかったといいます。
ABS銀行 ローナーCEO
「口座を閉めた人や、預金を他の銀行に移した人もいました。
しかしマイナス金利による損失は、1年分の利益に相当するほど負担が大きかったのです。
そのため、なんとかしなければなりませんでした。」
今後、預金金利をマイナスにする銀行が、さらに出てくるのではないか。
不安に思う市民が買い求めているものがあります。
それが金庫です。
この会社では、去年1年間で金庫の売り上げが20%も増えました。
中でも売れているのが…。
金庫会社 営業マネージャー
「特に需要が高いのは、このタンス型金庫です。」
銀行から現金を引き出し、いわゆる、タンス預金をする人が増えているというのです。
さらに、より多くの現金を手元に置こうという人も増え、高額紙幣の需要が高まっています。
日本円で、およそ11万円に当たる、1,000スイスフラン札の増刷が急ピッチで進められています。
金庫会社 営業マネージャー
「銀行に対する不信感が高まっています。
銀行に預けるより、家の金庫に保管する方が、ましだと思っているのでしょう。
この傾向は今後さらに強まっていくと思います。」
●今、スイスの銀行では100万円預けると1,250円預金者が払わないといけない 日本でも預金者に利息がかかるという事態は起きる?
日本では当面、マイナス金利というのはないと思います。
なぜかというと、まず日本の銀行はかなり、もうかってるということですね。
要するに、昨年の銀行の収益を見たら、過去最高を更新していますので、まだまだ日本の銀行は体力はあるということです。
もう1つは、今、マイナス金利が適用されているのは、日銀に預けているお金のほんの一部ですので、それもマイナス0.1ですので、それほど大きな影響は、今後出てくるとは思えないと思います。
●マイナス金利を導入することで、ヨーロッパでは、全体として景気刺激効果、あるいはインフレへの効果など、どういうことが起きている?
全体としては、インフレ率もある程度伸びてきましたし、成長率も上がってきた、貸し出しも伸びてきたということで、全体としては、ある程度の効果は出てましたけども、そこに原油価格ががっと下落しましたので、そこでインフレ率はなかなか伸びづらかったというのはありますけれども、経済全体に対しては、やっぱりプラスに働いたということがいえるかと思います。
(ヨーロッパでは、かなりのバブルが起きていたが?)
そうですね。
バブルだけはやっぱり心配しないといけない、日本の場合も心配しないといけないと思います。
(特に家計への、持っている負債が増えているということ?)
そうですね。
●日本は量的・質的緩和を行い、今度はマイナス金利を導入する 黒田総裁が日銀は今後さらなるマイナスにするかもしれないと発言していたが、どんなペースでマイナス金利が進むのか どのような展望を持っている?
黒田総裁は今後、どんどんマイナス金利も辞さないというふうにおっしゃってますけども、やはり、一気にやると副作用が出てきますので、ヨーロッパのような形で、副作用が出てきますので、これは慎重にやっていかないといけないと思います。
仮に効果が出ない場合は、今度は財政出動が政府のほうから、財政出動が出てくるというふうに考えられます。
●本当の実体経済をどうやって日本は伸ばしていくのか 緩和頼みということへの危うさも感じるが?
そうですね。
緩和と財政出動が効いてるうちに、成長戦略とやっぱり、人口問題ですね、この辺に対応していくというのが、非常に重要じゃないかなと思っています。
(人口問題というと?)
少子高齢化の対策ということですね。
これが一番重要だと思います。
(労働人口を増やしていくと?)
労働人口を増やして、経済を盛り上げていく。
これが非常に重要だと思います。