2016年3月号

プロジェクトニッポン 滋賀県

ピエリ守山、「体験型」で再生 「コト消費」で商業施設に活気

山野 智久(アソビュー 代表取締役社長)

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交通が不便な場所に立地する大型ショッピングモール「ピエリ守山」。テナントが撤退し、閑散とした施設内の風景は「明るい廃墟」と話題になった。しかし、今、賑わいを取り戻しつつある。その一助となったのが、体験型の施設だ。

ピエリ守山の敷地内に誕生したアスレチック施設「びわこスカイアドベンチャー」。

2006年のまちづくり3法の改正により、全国で大型ショッピングセンターの開業が相次いだ2008年、「ピエリ守山」は東京ドーム約3個分の広さを誇る、滋賀県最大級の商業施設としてオープンした。当初、200店舗以上が軒を連ねる地元の人気スポットとして順調なスタートを切ったように見えたが、1年後から客数が激減。2013年には8店が営業するのみとなり、その寂れた風景は、インターネット上で「明るい廃墟」と話題になった。

そのピエリ守山が2014年、リニューアルオープンした。現在では100店舗以上が入居し、多くの買い物客で賑わっている。この再生への挑戦の一助となっているのは、体験型の観光商品を提供する地元の事業者だった。

子ども連れのお客が、数多く来場する

「体験」から「買い物」へ誘導

ピエリ守山の屋外スペースには、他の商業施設とは一風変わった体験施設が併設されている。それは、地上8mの高さでの丸太渡りや空中を滑空するスライダーなどが楽しめるアスレチック施設だ。年間8ヵ月間の開催期間で、1万人が体験に訪れている。体験を楽しむお客の9割が、ショッピングモールが目的ではなく、アスレチックを目的に訪れ、ピエリ守山への来店のきっかけそのものをつくり出している。

「大人も楽しめる本格的な施設にすることで、親子一緒に体験し、会話が生まれることを目指しています。もともとは滋賀県の彦根市で開催していたのですが、彦根での評判が良かったのでピエリ守山に応用し、施設の活性化に貢献できないかと考えました」

こう話すのは、ひこねスカイアドベンチャー代表の村上久志氏。

村上久志 ひこねスカイアドベンチャー 代表

「親子で同じ体験を共有した後は会話も弾み、そのままショッピングモールで食事や買い物を楽しむという流れができています」

村上代表は、体験に訪れたお客のショッピングモールへの誘導も積極的に行い、「コト消費」をきっかけとして「モノ消費」の増加へとつなげている。

また、ピエリ守山へ買い物目的で来たお客に向け、買い物だけではない楽しみを提供し、リピーターの増加へとつなげようと名乗りを上げたのが、HORSE JAPAN代表の馬野友秀氏だ。

馬野友秀 HORSE JAPAN 代表

館内を走る「不思議な乗り物」

もともとは水上バイクの水圧を利用し、空中浮遊するアクティビティ「フライボード」の体験を琵琶湖で開催する事業者である。琵琶湖に最新アクティビティを真っ先に取り入れたことで、人気施設へと成長させた。

その経験から、次のブームとして、体を傾けるだけで移動できる「バランススクーター」に着目。20分間の走行体験ができる手づくりコースを館内に設置した。

「実は、これは日本初の試みです。他の施設では事故が起きた場合のリスクを考えて、館内での走行を許可してくれないと思います。しかしピエリ守山を復活させるには、他がやっていないことをやるべきという思いに共感してくれた施設側が、最終的に了承してくれました。私自身がバランススクーターに乗り、モール内を走り回って宣伝しています。私を見たお子さんが興味を示し、親御さんと体験にやってくるというサイクルができています」

館内で体験できる、体重を傾けるだけで進む不思議な乗り物「バランススクーター」。誰でも簡単に乗ることができ、転ぶ心配も無いという

バランススクーター体験は開始からまだ1ヵ月足らずだが、土日の2日間で約200名が訪れ出足は上々のようだ。

こうした取り組みに、ピエリ守山副支配人の広島兼太郎氏は期待を寄せる。

「モノ消費のみでは、他の商業施設との競争にさらされてしまいます。そこで体験型施設を導入し、1日遊べる場所として差別化を図ろうと考えました。リニューアルオープン当初こそ、目新しい外資系店舗が話題となりましたが、今では体験型施設が好評となり、滞在時間の延長とリピーターの増加につながっています。特に若いファミリー層が、両親の買い物に加えて子どもの遊び場として利用してくださり、住民同士の集いの場としても機能しています。今後も住民のアイデアを運営に活かし、地域一帯となって飽きのこない施設づくりを目指します」

ピエリ守山の再生へのチャレンジは始まったばかりだが、地域事業者のアイデアを活かした工夫で成功への兆しが見え始めている。

一時の話題性だけではなく、お客を真に満足させるための取り組みによって、継続的な発展につながることを期待したい。

物珍しい乗り物に惹かれ、体験コースは多くの来場者で賑わう

山野智久(やまの・ともひさ)
アソビュー代表取締役社長

地方創生のアイデア

月刊事業構想では、「地域未来構想  プロジェクトニッポン」と題して、毎号、都道府県特集を組んでいます。政府の重要政策の一つに地方創生が掲げられていますが、そのヒントとなるアイデアが満載です。参考になれば幸いです。

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