トピック
「七人の侍」と「生きる」が“最高画質”目指し4Kレストア。最新の修復現場に潜入
(2016/2/22 00:00)
黒澤明監督の名作「七人の侍」(1954年)と「生きる」(1952年)。いずれも60年以上前の作品で、これまでもニュープリントやレストアなどが試みられてきたが、“これまでで最高の画質”を目指した4K修復が実施。高画質化したものが、劇場で上映される事が決定した。修復を担当したのは、調布にある東映の東京現像所。その修復現場をレポートする。
傑作娯楽映画を選び、1年間にわたって連続上映する企画「新・午前十時の映画祭」。昨年の4月4日から、今年の3月18日まで全50週間実施されているもので、外国映画15本、日本映画5本に、これまで上映した中で特に人気の高かった外国映画10本を加え、合計30本をラインナップ。全国54カ所の劇場・シネマコンプレックスで上映している。
その上映作に、新たに黒澤監督の「七人の侍」と「生きる」が追加。その上映に向け、東映の東京現像所が最新の4K修復を行なう事になったわけだ。
オリジナルに近いマスターポジを探す
レストア作業はまず、状態の良い、そしてオリジナルに近いマスターポジやデュープネガ(マスターポジから作成したもの)を探すところから始まる。撮影されたオリジナルネガの所在は現在不明で、燃えやすい可燃性フィルムが使われていたと思われる事から、「もしかしたら(オリジナルネガは)破棄されている可能性もある」(東京現像所)という。
かつて、そのマスターから上映用のマスターポジフィルムが沢山作られたわけだが、現存するマスターポジフィルムの中から、オリジナルにより近いものを探していく作業になる。
“オリジナルに近いもの”の指標となるのが、フィルムに記載された製造年などの記号。さらに、フレームとフレームの間に焼き込まれのサインがあるかどうかなど、細かなポイントをチェックしながら、最もオリジナルに近いマスターポジを探していく。コマが欠損していないかどうか、欠損しているコマは他のフィルムに入っているかなどのチェックも並行して行なわれる。
さらに、マスターポジフィルム自体の劣化もチェック。何度も上映に使われたり、経年劣化する中で、キズがついたり、フィルムが縮んでしまっていたり、そのまま再生機械にかけると裂けてしまうようなフィルムもあるという。そうしたダメージを、職人技で修復。固まったり、溶けてしまったような部分も修復できる特殊な技能を備えた職人が手作業で“機械にかけられるフィルム”へと修復していくわけだ。
キズやゴミを丁寧に修正
機械にかけられるようになったフィルムを、スキャンし、デジタル化していく。6K解像度まで対応した機械で1コマ1コマスキャンしていくのだが、その様子を観察していると、RGBの光がパパッと順序良く発光しているのが見える。単純に白い光を当てて撮影しているのではなく、R、G、Bの光を個別に当て、合成して1枚のデータにしているそうだ。
さらに、R、G、Bの光は各2回発光している。強めの露光、弱めの露光……つまり、R、G、Bで2回ずつ、合計6回光を当てて撮影するわけだ。これは、ディスプレイのトレンドであるハイダイナミックレンジ(HDR)と同様の考え方で、強めの露光をした際の絵と、弱めの露光の絵を組み合わせる事で、ノイズが少なく、最も高画質な絵が得られるという。
こうしてデジタル化されたデータは、4Kの映像ファイルとして、レストアルームへと送られる。MTI製のレストアソフトを用いて、キズやゴミの修正、画面の揺れ、グレインの調整を行なう。
画面にチラチラと現れるゴミやノイズは膨大な量であるため、作業量も膨大だ。レストアソフトには、自動でそうしたゴミを消す機能も含まれているが、「例えば暗いシーンの中で光るシャツのボタンなどもゴミと自動判別して消してしまったりします。やはり細かい部分は手作業でやっていくほかない」という。修正の基本は、前後のコマから、キズの無いコマを抽出、それをキズの上にペーストするイメージだ。
ちなみに、「七人の侍」の総コマ数は29万7,406コマ、「生きる」は、20万5,405コマ。特に大変だったのは、「七人の侍」の、最後の土砂降りの合戦シーンだという。降りしきる雨と、キズやノイズの判別がしにくいためだ。作業を背後から見ていると、見落としてしまいそうな細かなキズもサッと判別し、修正していく。その手際の良さは、職人技そのものだ。
音声トラックを再生せず、“撮影”してデジタル化
今回の「七人の侍」と「生きる」のレストアでは、音声のデジタル化の手法に大きな特徴がある。日本に一台しかないという、光学サウンドトラック・デジタル再生装置「SONDER・RESONANCES」を導入し、使っている事だ。
通常は、フィルムを再生し、再生された音を録音する。しかし、SONDERのRESONANCESという装置は、プリントフィルムやネガフィルムの光学トラックを、画像として撮影。その波形から、デジタル音声を得るもの。高音質なデジタル化ができるだけでなく、再生のためのプリントを焼かずにサウンドのスキャンできるため、作業時間の短縮にも寄与しているという。
得られた波形データは、映像をレストアするように、ノイズを除去したり、薄くなっている波形のコントラストをクッキリつけて音をクリアにしたり、フィルムがよれていてもレンズを調整する事で揺れのない綺麗な音をデジタル化できるといった利点がある。デジタル化は96kHzで行なったそうだ。
デジタル化した音声は、ProToolsで整音。izotopeの音声修復ツール「RXシリーズ」をメインに使い、細かなノイズなどを除去していく。RESONANCESでデジタル化する事で、音も解像感や音の細かさは大幅に向上したとのことで、セリフが聞き取りづらいと言われる事が多い「七人の侍」も、聞き取りやすくなっているそうだ。一方で、故意にセリフを際立たせるような処理はしておらず、「あくまで原音に忠実に、あとから付加されたものを取り除く事を念頭に作業をした」という。
「黒澤さんにも見せたかった」
こうしてレストアされた映像と音声は、実際にDIルームと呼ばれる部屋で大型のスクリーンに投写。最終のチェックをしながら、カラーグレーディングなどの処理を行なっていく。
「七人の侍」も「生きる」も古い作品であるため、一コマの中でも、上の方だけ明るかったり、右のほうだけ明るかったりするようなコマもある。そうしたものを調整し、自然な絵にしていく作業だ。
また、デジタル化する事で、背景にあるお店の中に陳列されているものなど、上映当時は見えなかったであろう部分が見えてくる事もある。その際は、当時のフィルムのカーブを増槽しながら、“見せ過ぎ”ず、あくまで当時の映像に近くなるよう調整する。具体的には“初号試写”の映像をターゲットに仕上げていったそうだ。
黒澤監督作品のスクリプター(撮影管理)を担当していた、野上照代さんは、レストアした映像を見て、「ただただ感動。黒澤さんにも見せたかった。きっと喜んだと思う」とコメント。
「七人の侍は、上映当時もセリフについては“何を言ってるんだかわからない”って、いろんな人に言われて、黒澤さんと“日本語の字幕をつけるか”なんて冗談を言っていたくらい。でも、音も綺麗になって、わかるようになりましたね」と笑顔。
「七人の侍は、(カメラマンの)中井朝一さんの大傑作。当時も、“墨絵のような色が出ればなぁ”と言っていました。それが、とても良く出ていると思う」と満足気だった。
URL
- 新・午前十時の映画祭
- http://asa10.eiga.com/
- 七人の侍の上映情報
- http://asa10.eiga.com/2016/cinema/611.html
- 生きるの上映情報
- http://asa10.eiga.com/2016/cinema/604.html
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