ジョエル・コーエンとイーサン・コーエンは、監督など共同で映画製作に携わる兄弟です。コメディ色の強いスリラー映画、もしくはスリラー色の強いコメディ映画を得意とし、テーマとして犯罪、特に誘拐や恐喝を取り扱うことが多いです。基本的に彼らが制作する映画は彼ら自身が書き上げた脚本に基づくものですが、大まかな枠組みとして既存の文学作品などからモチーフを借りてくることも多く、ハードボイルド小説への傾倒が顕著です。また、最近は減りつつありますが、スティーヴ・ブシェミ、フランシス・マクドーマンド、ジョン・ポリト、ジョン・タトゥーロ、ジョン・グッドマンらがしばしば俳優として起用されます。
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大学で経済学を教えるエドワードを父に、美術史を教えレナを母に、兄のジョエルは1954年、弟のイーサンは1957年に、ミネソタ州ミネアポリス郊外で生まれました。少年時代から兄弟は読書や映画鑑賞を趣味とし、ジョエルが貯めたお金で8ミリ映画撮影用機材を購入、近所で仲間を募って映画を撮り始めたこともありました。ジョエルはニューヨーク大学で映画製作を学び、イーサンはプリンストン大学で哲学を学びます。ニューヨーク大学を卒業後、ジョエルはアシスタントとして映画やミュージック・ビデオの製作現場で働くようになります。映画監督のサム・ライミと知り合い、彼が監督したホラー映画「死霊のはらわた」(1981年)の編集助手を務めて以来、ライミはコーエン兄弟の友人として公私共に親密な交際を続けています。
プリンストン大学を卒業したイーサンが、ジョエルの住むニューヨークを訪れ、兄弟は共同で脚本の執筆を開始、後にそれを彼ら自身の手で映画化した処女作「ブラッド・シンプル」(1984年)を発表します。「ブラッド・シンプル」は低予算ながら、完成度の高いスリラー映画として高い評価を得、この作品で兄弟はインディペンデント・スピリット監督賞を受賞、一躍インディペンデント映画界で注目されます。その後兄弟はハリウッド大手スタジオの20世紀フォックスと契約、「赤ちゃん泥棒」(1987年)、「ミラーズ・クロッシング」(1990年)、「バートン・フィンク」(1991年)といった話題作を次々に公開します。特に「バートン・フィンク」は同年度のカンヌ国際映画祭でパルム・ドール、監督賞、男優賞の主要3部門を制覇、兄弟は国際的な知名度をあげます。
巨額の製作費をかけた「未来は今」(1994年)で興行的に失敗したものの、原点回帰した「ファーゴ」(1996年)は批評家たちに絶賛され、アカデミー脚本賞を受賞します。海外での評価も高く、この作品で二度目のカンヌ国際映画祭監督賞を受賞します。「ビッグ・リボウスキ」(1998年)は興行的にも批評的にも微妙でしたが、ビッグ・リボウスキ祭りが開催される等、一部の熱狂的なファンからカルト的な支持を受けています。2000年代に入っても意欲的な制作は続き、ジョージ・クルーニー主演の「オー・ブラザー!」(2000年)は、サウンドトラックが700万枚を超える話題作となりました。翌年の「バーバー」(2001年)ではフィルム・ノワールを彷彿とさせる白黒映画に挑戦、「バートン・フィンク」、「ファーゴ」に続き三度目のカンヌ国際映画祭監督賞を受賞します。その後も興行的な成功が続き、彼らの作品は一般受けしないというレッテルを返上、「ノーカントリー」(2007年)では作品賞を含むアカデミー賞4部門を受賞します。この作品は全世界で1億6000万ドルを超える興行収入を挙げ、さらに2010年に公開された「トゥルー・グリッド」は「ノーカントリー」を興行収入で凌ぎコーエン兄弟の最大のヒット作となりました。
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コーエン兄弟製作映画では、「ディボース・ショウ」(2003年)まで、監督・脚本にジョエル、脚本・製作にイーサンがそれぞれ別にクレジットされていましたが、実際はどちらも兄弟の共同作業であり、「レディ・キラーズ」(2004年)からは監督・脚本・製作全て兄弟の連名となっています。ジョエルは1984年に「ブラッド・シンプル」の主演を務めたフランシス・マクドーマンドと、イーサンは1993年に「ミラーズ・クロッシング」の編集助手を担当したトリシア・クックと結婚、どちらの夫婦もニューヨークに在住しています。ジョエルがアカデミー脚本賞を受賞した「ファーゴ」で、妻のフランシス・マクドーマンドがアカデミー主演女優賞を受賞しています。
「ブラッド・シンプル」(1984年)
「赤ちゃん泥棒」(1987年)
「ミラーズ・クロッシング」(1990年)
「バートン・フィンク 」(1991年)
「ビッグ・リボウスキ」(1998年)
「ノーカントリー」(2007年)
「シリアスマン」(2009年)
「トゥルー・グリット 」(2010年)
「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」(2013年)
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