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技術理解の『差』は衝撃的なほど広がっている

▪人工知能はビジネスに影響しない?

先日、友人の誘いもあって、とある人工知能の勉強会に出かけた。たしか、人工知能が浸透してくるこれからの社会について考察する、というようなタイトルだったと思うが、これは額面通りなら今自分が最も関心があるテーマでもあり、しかも、勉強会のリード役は、日本有数のシンクタンクの若手だという。どんな話であれ、今後の参考になる話が聞けるに違いないと、いつも以上に期待して出かけた。ところが全く逆の意味で驚かされた。少々体調不良で、話の途中で退席してしまったため、全部を聞けたわけではないのだが、話の結論は、世で語られる人工知能の話は、賑やかだがビジネスの本質をついておらず人工知能を過大評価しており、近未来社会も今とそれほど変わらない、というような内容だった。さらに驚いたのはその場の聴衆がその論調に納得し、同意しているように見えたことだ。

いくら何でもこれは牧歌的すぎる。昨今の人工知能(およびそれを含むデジタル技術革命)が近未来社会を劇的に変えてしまう、という意見にはそれなりの根拠がある。もちろんそのレベルや浸透のスピードについては様々な意見がある。だが、ほとんど影響はないというのはどう見ても過小評価が過ぎる。さすがに唖然としていくつか質問して揺さぶって見ようとも思ったのだが、自身の体調が優れなかったこともあり、早々と失礼することにした。

何も、人工知能が人間なみの意識を持つようになると思うかとか、人類を滅ぼすようになると思うか、という類の難問が問題になっていたわけではない。近未来のビジネス社会が変化を受けるかどうか、というような、ある意味で軽めの議論だったし、昨今では日本のビジネス社会に及ぶであろう影響についての情報は既存のメディアでも大量に垂れ流されるようになってきた。どんなに軽めに見積もってもかなり大きなインパクトが及ぶであろうことは、もはや避けようがないというのが世の常識になっていると思い込んでいた。

確かに、冷静になって自分の周囲やら友人知人を振り返ってみても、このようなシーンに過去何度も出くわしていたことを思い出してきた。一流と言っていい企業勤務であったり、高学歴の持ち主であっても、さほどの違いはない。考えてみれば、これが今の大半の日本のビジネス・パーソンの現状であり、現実なのかもしれない。

▪技術は否応なしで進化している!

だが、少し耳を澄ましていれば、技術進化の足音は、ますます大きく、足早になっていることがわかる。ちょうど、Googleの傘下で人工知能の研究を続けるイギリスの『DeepMind』社から、驚くべき発表があった。まだ人間のトップレベルを負かすには10年は必要と言われていた囲碁で、人工知能が人間の囲碁の現欧州チャンピオンに完全勝利したという。

「囲碁の謎」を解いたグーグルの超知能は、人工知能の進化を10年早めた « WIRED.jp

しかも、そのくらいのことで驚いている場合ではないようだ。

最近、スーパーコンピュータのベンチャー企業であるPEZY Computing創業者の齊藤元章氏のお話を聞く機会があったのだが、淡々と語る齊藤氏のお話は、多少なりとも昨今のデジタル技術の驚くべき進歩にキャッチアップしているつもりの私が聞いても、衝撃的の一言だ。

▪天才が淡々と語る衝撃のビジョン

齊藤氏は、従業員20人にも満たないベンチャー企業を率いて、わずか7ヶ月あまりで生み出したスーパーコンピュータ『Suiren』で2014年11月のGreen500(世界で最もエネルギー効率の良いスーパーコンピュータ上位500位のランキング)の世界第2位を達成したかと思うと、開発開始後約1年後の2015年6月の同ランキングでは、世界の1位から3位まで独占するという快挙を成し遂げた、今業界の最大の注目株の一人だ。今も、2011年のTop500(世界で最も高速なスーパーコンピュータ上位500位)で世界一となった、スーパーコンピューター『京』の100倍の処理能力を20mwという省電力で実現するスーパーコンピュータを2019年までにつくるべく準備を進めているという。

この稀代の天才ともいうべき、齊藤氏の将来ビジョンが超弩級だ。

まず最初に、エネルギーに関する問題が解決されるでしょう。スーパーコンピュータの圧倒的な計算能力によって熱核融合や人工光合成が実現し、世界は新しいエネルギーに満ち溢れます。そして、より高度な遺伝子組み換え技術と人類すべての食料を補って余りある生産技術が確立し、食料問題が解決します。労働は超高効率のロボットで代替され、最終的には衣食住のすべてがフリーになります。

それによって現在のような消費のシステムもなくなり、人は生きるために働く必要のない『不労』の社会を手に入れます。やがて人体のメカニズムが革新的に解明されることで、人類は『不老』をも手にすることになるでしょう。

雑誌『WIRED』VOL.20 2015年12月1日(火)発売。特集は「A.I.+CITY」。 « MAGAZINE(雑誌)« WIRED.jp

私は、仮にこれが実現するとしたら、未来学者、レイ・カーツワイルらが提唱した『シンギュラリティ』*1の2045年、すなわち今から30年後くらいのことだろうと思っていたが、齊藤氏は、そのずっと前、『プレ・シンギュラリティ』の段階で生じる世界だという。しかも、この『プレ・シンギュラリティ』、あと5年から10年もしないうちにやってくるというのだから、開いた口がふさがらない。当日の齊藤氏は、レベルの高い知識人達から存分に質問を受けていたが(ムーアの法則やノイマン型コンピュータの限界問題等)、柔らかだが、はっきりした口調で語る齊藤氏の言には非常に説得力があり、疑念はあっさりと解消し、納得させられてしまう。

▪ぐらつく自信

このままでは、近世~現代にいくつか起きたパラダイムシフトなど、ほとんど比較にならないほど大きな『激変』が一気にやってくることになる。一体何にどう備えたらいいのだろう。自分の足りない頭で知恵を絞って将来に備えたところで、怒涛の激流に流されてほとんど意味がなくなってしまいそうだ。先に述べたシンクタンクの若手のお話と齊藤氏のお話が同時期に出て、同一平面上にならぶ、そんなことが起きること自体、この時代のものすごさを物語っているとも言えるが、これから年々この幅が無限とも思えるくらいに開いていくと思うと、一体自分が何を言えるのだろう。はなはだ自身がなくなってくる。

私が多少なりとも勉強してきた、経済学等の人文系の学問も、仕事を通じて得た経験や知識も、好きで勉強してきた歴史も、ほとんど役に立たないのではないか。全く役に立たないというのは言い過ぎだが、少なくとも、前提条件をよほど丁寧に統御しないことには、役に立てようがなくなる。特に衣食住に関わる物財のほとんどの希少性を考慮する必要がないとすると、従来の経済学など成立の基盤のほとんどを失うとも言っても過言ではない。仕事を通じて一時期一生懸命勉強してみた、マーケティング等の知識も圧倒的な計算能力に裏付けられた人工知能に伍していけるとは考え難い。むしろスポーツや武道(空手)で経験した、身体を通じて得た『体感』、『直感』、音楽や絵画等の芸術に触れることによる『感動』、『感性』等をもっと追求していくほうが、将来が開けてくるのでは、という気さえしてくる。

▪正面から向き合うしかない

だが、いずれにしても、どの立場にいるのであれ、起きていること、起きようとしていることに目を背けないこと、自分の全神経、全感覚を研ぎ澄まして、この凄まじい時代の潮流を全身で感じることをやめるわけには行かない。そもそも、プレ・シンギュラリティ後の世界がどうなるのであれ、大混乱が予想される、それまでの5年〜10年を普通のビジネス・パーソンである私達は生き延びなければならない。

最先端の技術に関わる話しをしていると、しばしば、『もっと地に着いた話しを』とたしなめるようにいう人も少なくないのだが、本当に地から足が離れているのはどちらのほうだろう? 私なのか、それともあなたなのか。この機会にじっくりと自問してみることをおすすめする。

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