世界の資産家の上位62人が持つ富は、全人口の下位半分、36億人が持つ資産の総額に匹敵する。国際NGO「オックスファム」は、そんな衝撃的な分析結果を公表した。

 エボラ出血熱やジカウイルスなど、感染症の脅威がじわじわと広がる。大地震や、地球温暖化との関連が疑われる豪雨・水害をはじめ、自然災害が世界の各地で相次ぐ。

 ■国連の新たな目標

 一見すると無関係な両者は「貧困」でつながる。格差・不平等の拡大が深刻さを増すなかで、疾病や災害はとりわけ貧しい人たちを直撃し、それが不平等の拡大に拍車をかけるという悪循環である。

 どう歯止めをかけていくか。

 国際社会は今年、あらゆる貧困をなくすという究極の目標を掲げ、15年後を見すえて「持続可能な開発目標(SDGs)」に向けて動き出した。

 経済と社会、環境の三つの調和を目指す目標の対象は幅広い。経済成長から教育や保健、社会保障と雇用、気候変動まで、17分野で169の項目が並ぶ。「誰も取り残さない」をうたい文句に、昨年秋に国連であったサミットでは全ての加盟国が賛成した。

 持続可能な開発という考え方が明確に打ち出されたのは、ブラジル・リオデジャネイロで四半世紀前に開かれた国連環境開発会議(地球サミット)だった。国連と各国政府にNGOも加わって2年余り討議を重ねた新たな目標は「検討の過程、内容ともに画期的」と評される一方、世界が抱える未解決の課題の膨大さを浮き彫りにする。

 しかし、立ち尽くしたままではいられない。

 ■難題は資金の確保

 あらゆる課題の根底に横たわるのが、対策資金をどう確保するかという難題だろう。主に先進国が拠出する途上国援助(ODA)や、世界銀行など国際金融の仕組みだけではとてもまかなえない。途上国や貧困国向けに、返済の必要がない資金を用意できる枠組みを作りたい。

 2000年代半ば、フランスを中心に始まった「革新的資金調達」は、その一例だ。従来の発想を超えることから出発する試みは、フランスや韓国など十数カ国が導入済みの「航空券連帯税」に結びついた、航空運賃に一定額を上乗せし、それを感染症対策などに充てている。

 独仏を中心とする欧州の11カ国は金融取引税の研究を続けている。株などの取引に薄く課税し、投機的な資金の動きへの抑えとしつつ、国際課題への対策に使うのが狙いだ。

 金融街シティーを抱える英国などが反対し、参加国の減少や課税対象取引の絞り込みを強いられ、導入時期も延びている。最近の市場の混乱もあって先行きは不透明だが、11カ国の意思はもっと注目されてよい。

 「所得格差(不平等)を是正すれば、経済成長は活性化される」。先進国中心の経済協力開発機構(OECD)がこんな分析を報告してから1年余り。米大統領選では民主党の候補者選びで不平等の是正を掲げるサンダース氏が支持を集め、日本でも経済成長に軸足を置いてきた安倍政権がにわかに「分配」を唱え始めた。

 開発途上国・地域で5人に1人が1日あたり1ドル25セント(約140円)未満で暮らす極度の貧困と先進国のそれは、水準こそ異なるものの構図は共通すると言っていい。

 成長か、分配か。グローバル化か、反グローバル化か。

 1990年代末、通商の自由化を目指す世界貿易機関(WTO)の閣僚会議を標的に始まった反グローバル化の抗議運動は、主要国首脳会議(サミット)や国際金融機関の総会に飛び火し、リーマン・ショック後には「1%に支配される99%」運動が盛り上がった。

 それでも、ヒトやモノ、カネ、情報などあらゆる側面で、グローバル化はいや応なく進んでいる。ならば、そのひずみを正し、成長というパイの拡大に結びつけ、分配の原資にできないか。SDGsはそんな問いかけでもあるだろう。

 ■企業の変化を生かせ

 反グローバル化運動で批判されてきた多国籍企業にも変化の芽が生まれている。企業の社会的責任(CSR)という意識を超え、環境への目配りや社会の不平等の解消を自社のビジネスの前提かつ機会ととらえる経営だ。自然環境からどんな恩恵を受け、影響を与えているかをはじく「自然資本会計」といった試みは、昨年末の国連気候変動会議(COP21)でのパリ協定を受けて拍車がかかりそうだ。

 そんな「民」の変化を補い、加速させるためにも、政府の行動が重要になる。

 5月には日本でサミットがある。テロや難民、中東や朝鮮半島の不安定化など課題は山積しているが、共通する要因が貧困だ。世界を主導する国々の首脳が議論すべき課題である。