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【社説】

介護施設の虐待 職員の数と質の担保を

 特別養護老人ホームなど介護施設の職員による高齢者への虐待が急増している。介護が必要な高齢者が安心して暮らせるよう、人手不足を解消するための財源措置が求められる。

 厚生労働省によると、介護施設の職員による虐待件数は二〇一四年度、過去最多の三百件に上った。前年度比35%増となっており、ここ二年間で倍増している。しかもこの数は公式に虐待と認められたものであり、氷山の一角である可能性が高い。

 被害者数は六百九十一人。虐待の種類は、最も多かったのが殴る蹴るなどの「身体的虐待」で64%、次いで暴言や無視などの「心理的虐待」(43%)、貯金を使い込むなどの「経済的虐待」(17%)だった。

 虐待が起こった理由については、「教育、知識、介護技術の問題」が六割超で最も多かった。「職員のストレスや感情コントロールの問題」も二割だった。

 虐待した職員は三十代以下が四割を超え、若い世代ほど多い傾向にある。経験不足も背景にあるだろう。

 入所者を転落死させたという容疑で元職員が逮捕された老人ホーム(川崎市)を運営する会社の親会社である介護事業大手「メッセージ」は、系列施設内で起きた虐待や事故など約二千件について自治体への報告を怠っていた。

 事件との関連は別にせよ、一般に介護施設の職員教育の充実や人材の確保は急務にちがいない。

 介護現場における人手不足は慢性化している。重大な背景の一つに過酷な労働なのに賃金が低いという問題が指摘される。一四年の施設介護職員の平均月収は、全産業平均を十一万円下回る約二十二万円だ。離職率は16%を超える。

 職員不足で、一部閉鎖に追い込まれる施設もある。在宅介護を担う職員には最低限「介護職員初任者研修」が義務付けられているが、施設職員にはそうした規定はない。採用には無理も出てくる。

 にもかかわらず政府は昨年四月、介護サービス事業者に支払われる介護報酬を過去最大に近い2・27%引き下げた。これでは現実に逆行する。また、施設は職員研修の費用などを削減する傾向にあるともいう。

 要介護者が安心して施設で暮らせるよう、職員の数と質を担保するため、介護報酬を引き上げることが求められる。介護を社会全体で担うという制度導入時の意気込みを忘れてはなるまい。

 

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