誰もが眉をひそめた。それでも買ってみた。しかも大勢が買った。1月28日発売であるにもかかわらず、1月の月間ベストセラーで2位につけた。
『あの日』は、小保方晴子(32)という若い科学者の回顧録だ。小保方氏は2014年1月まで、日本科学界のアイドルスターだった。簡単な操作で普通の細胞をあらゆる臓器に変化させられる、という論文を国際学術誌『ネイチャー』に発表した。「ノーベル賞候補トップ」の声も上がった。しかも美人。ところが、論文はうそだった。わずか40日で、論文全体が偽物の塊だと判明した。この時、国全体がどれほどの虚脱感に見舞われたか、「黄禹錫(ファン・ウソク)事件」を経験した韓国人なら分かる。共同研究者は自殺した。
著者は「心から反省し、恥じ入りつつ書いた」と記した。しかし読了した人の中には「本当に反省しているのか」と首をかしげる人も多い。心情をつづる文章がなんだかひどく華麗で読みにくい、という反応もある。読者の一人は、こんな読後感を漏らした。「ほかの人もぜひお読みになるといい。私だけが大事な時間を無駄にして読んだなんて」