一定あるいはそれ以上の収入があるのに、クレジットカードの残債が減らない。給料日前にはカップラーメンなどで食いつなぎながら、身につけているのは高級ブランドの服やバッグ――。
都市部でそんな生活を送る“貧困女子”の存在がクローズアップされています。
多くの人々から見ればちぐはぐなお金の使い方で、「なんで?」と思うような困窮生活を送る貧困女子。その実態をつぶさに見つめたのが、『貧困女子のリアル』(沢木文著、小学館)です。
本書は、30人以上の都市部の貧困女子へのインタビューで、彼女たちの“心の欠落と闇”とその結果の“浪費”を浮き彫りにしています。
彼女たちの多くは、ごく普通に育ち大学や短大を卒業した、どこにでもいる女性たちです。それがなぜ、貧困状態から抜け出せなくなってしまうのでしょうか。弱さでしょうか? 甘えでしょうか? 決してそれだけではありません。
本書を通して見えてきたのは、彼女たちに共通する5つの背景でした。
■1:大きな借金
わかりやすいきっかけのひとつが、多額の借金返済に収入が追いつかないケース。
親の病気や失業で実家の住宅ローンを負担するような突発的ケースのほか、ギャンブルに依存する父親の借金を負担する、浪費癖のあるきょうだいの借金を肩代わりする、といった話も。
するとお金の問題に、家族に対する精神的な嫌悪感が加わり、それが本人の浪費など新たな闇につながっていくのです。
■2:依存体質
親への精神的な依存や恋人、恋愛依存が浪費につながるケースも。
厳しすぎる母親に愛されたいという深層心理から、母親にお金や高価なブランドバッグを渡してしまうという38歳の女性。月収が40万円程度ありながら常時15万円ほどの借金を抱えています。
自分の容姿に自信をなくし、イケメンの恋人を失いたくないばかりに、いわれるまま生活費やパチンコ代にとお金を渡してしまう35歳の女性も。相手に愛されることを自分の存在意義のように考えてしまい、ゆがんだ関係から抜け出すことができないのです。
■3:間違った金銭感覚
収入以上の派手な生活をやめられない“浪費女子”は、裕福な家庭に育ち、高学歴、キャリアを持つ女性の落とし穴です。
大手の広告代理店に勤務する35歳の女性は、抜群のルックスで幼いころから親や周囲、恋人から甘やかされ、正しい金銭感覚を身につけることができないままに大人になってしまったといいます。
高校時代から15万円のエルメスの財布を持つなど暮らしぶりは“貧困”とは正反対ですが、借金の額は膨らむ一方。借金がいけないという感覚が欠落しています。
長い間に身についた金銭感覚を変えることは難しいもの。現状に目を背けているうちは、悪循環から抜け出すことはできません。
■4:外見、階級へのコンプレックス
自分自身や置かれた環境へのコンプレックスから浪費が止められないのも、都市部の独身貧困女子に多く見られる傾向です。
20代のころに読者モデルとして活躍した34歳の女性は、年齢が上がりモデルの仕事がなくなった今も華やかな世界へのあこがれが捨てられず、ファッションや美容、モデル同士の女子会への支出で借金が膨らんだとか。
39歳の販売員の女性は、結婚を焦るあまりエステや脱毛、矯正下着といった支出がやめられず、月収32万円でもクレジットカードの残債総額は不明だといいます。
■5:将来への不安
働く単身女性の3分の1が年収114万円未満といわれる現在、非正規雇用で働き社会保険などにも加入していないワーキングプアの独身女性も少なくありません。
“派遣切り”や“雇い止め”の影におびえ、あるいは早朝から深夜に及ぶ激務、職場でのパワハラなどで疲弊し、年収は正社員の半分、ということも。
転職を重ねてもブラック企業の連続だったという36歳の女性は、契約社員として入社した職場で正社員の3分の1以下の給料で3倍働かされ、その挙句に3年目で契約が打ち切りになったそう。
ストレスと寂しさで浪費をやめられず、キャッシングは常に限度額いっぱいまで利用してしまうと話します。
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著者は、彼女たち一人ひとりに丹念に話を聞き、貧困状態に陥ったきっかけや現在の借金額を具体的に聞き取っては、その都度統計データを引き、そうした状況が決して特別なものではないことを裏づけていきます。
読むほどに、いつ自分自身が陥ってもおかしくないとすら感じます。
なかには「依存体質」と「外見へのコンプレックス」など、複数の傾向を併せ持つ女性も。「わかっていてもどうすることもできない」ともがく貧困女子の問題の根深さを、著者は淡々とあぶり出していきます。
貧困女子を「理解不能」「自業自得」と断じる前に、ぜひ一読してほしい1冊です。
(文/よりみちこ)
【参考】