【寄稿】ゴッホを落札した齊藤了英はなぜ没落したのか

人を救う絵、不幸をもたらす絵

 上の一文は、朴洪圭(パク・ホンギュ)嶺南大学法学科教授の著書『私の友人ビンセント』から再引用したものだ。朴教授は、ファン・ゴッホこそ真の「大地の画家」であって、彼が描いたものは「固定された大地ではなく、のたうつ生の大地だった」と語る。風水学者の立場から見て、ファン・ゴッホの大地観は興味深い。なぜならば、風水とは結局、大地をどのように認識するかに関するものだからだ。朴教授は、ファン・ゴッホの絵を「渦巻き技法」として把握し、それは人々に「目まい」を引き起こす、と語った。ファン・ゴッホが大地に見たものは、風水の用語でいう狂竜、すなわち狂った土地だった。土地が狂っていたか、そうではなく彼がそのように認識したのかは分からない。

 ファン・ゴッホの生涯が悲劇的だったことは、よく知られている。彼の代表作にして、一時世間で最も高値が付いた絵もまた悲劇的だった。彼が死の数週間前に描いた「医師ガシェの肖像」(1890年)のことだ。ガシェはファン・ゴッホを治療していた医師だが、ファン・ゴッホのように精神的問題も抱えていた。ファン・ゴッホが描いたガシェの肖像画は、極めて憂鬱(ゆううつ)そうに見える。ファン・ゴッホは、医師ガシェを、自らの内面的・外面的「ドッペルゲンガー」と考えた。ガシェの肖像画ではあるが、同時にファン・ゴッホの自画像でもあるというわけだ。

 ファン・ゴッホの死から100年後の1990年。この絵は日本人の実業家、齊藤了英によって落札された。落札価格は実に8250万ドル(当時のレートで約125億円)。ここまで高値で購入した理由については諸説あるが、齊藤会長の代理人を務めた画商、小林秀人は「齊藤会長が、ガシェに自分の姿を見たから」と語った。結局この絵は、ファン・ゴッホ、ガシェ、齊藤了英という3人の肖像画になったわけだ。齊藤会長の運命はどうなったか。絵を買った3年後の93年、齊藤会長は贈賄の罪で起訴され、会社は傾いた。はっきりしているのは、この絵への投資が齊藤会長の没落を促進させたということだ。96年に齊藤会長が死去した後、「医師ガシェの肖像」の行方は分からなくなった。

又石大学教養学部キム・ドゥギュ教授
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