13/65
書籍化記念内輪話
ネタバレですが書籍版の加筆部分等について、少々解説など。
冒頭、バルドがとても太い木剣で修行していますが、これは実在の流派の修行をモデルにしています。
作者の知っているところでは、新撰組の近藤勇や土方歳三、沖田総司で有名な天然理心流がそれです。
およそ直径が六センチほどの極太な木剣を使って形稽古をすることで、握力と筋力を鍛えるという、いかにも実戦に強そうな修行方法を使っています。
お味噌汁のお椀くらいの太さと言えばイメージ的に間違いはないでしょう。
またこの木剣は普通の木剣より重心が先端の方にあり、遠心力が働くため、これを振るのは非常に強い握力と筋力を必要としました。
同時に重さも真剣と等しくなるように、という念の入れようだったそうです。
これで素振りをしたら作者は、一分で筋肉痛になる自信があります(笑)
幕末で新撰組が活躍できたのも、こうした実戦向きな修行の成果だったのでしょうか。
もっともガム新こと永倉新八や、某少年漫画で牙突(笑)とか打ちまくっている斎藤一などは天然理心流ではありませんから、必ずしもそうとばかりは言えないのですが。
個人的には山南(今はさんなん、と読むのが主流らしいですね)敬助や坂本龍馬、清河八郎などで有名な北辰一刀流が好きなのですが、今ひとつ剣客としてぱっとしない印象です。(桂小五郎は神道無念流でした)
主人公の前前世、岡左内さんですが、もう大好きです。
逸話を聞くかぎり、どうしてこの人が無名なのかが不思議でならない。
守銭奴、利殖家としては知る人ぞ知る人だけど、苦労して小判を一枚を貯金した部下を褒め、追加で小判をくれてやったりというエピソードや、左内からの借金とりに恐怖した上杉家(家康に真っ向から反抗したのに)が直江兼継を立てて交渉に赴くと、悠然と笑って借金の証文を全て焼き捨てて見せた、などただの守銭奴ではない逸話が数多く残されています。
あと一歩で伊達政宗を討ち取る寸前までいったというのも事実で、後年、政宗に再会したとき、「政宗殿の兜を打ちすえた感触、まだこの手に覚えておりますぞ」と言われ、あの独眼竜が咄嗟に返す言葉を失ったというから面白い。
しかも左内はその独眼竜から是非仕官して欲しいと乞われて、三千石とも一万石とも言われる破格の条件を提示されています。
関ヶ原の戦い当時、左内とともに上杉牢人として有名であった人物には、「花の慶次」で有名な前田慶次郎や、剣聖上泉信綱の孫とも言われる上泉泰綱、佐竹の虎こと車丹波、反町大膳、才道二といった、錚々たる第一級の戦術指揮官が揃っていましたが、そのなかで大名格の万石取りとして再就職できたのは岡左内ただ一人なのです。
ちょうど上杉家に仕えていたころ、いよいよ家康が出陣したというので、戦の準備に家中が大わらわであったとき、岡家では役者を招いて、盛大な能の宴が催されていたそうです。
これを聞いた同輩が、「戦の準備はよいのか」と聞くと、左内は「戦が近くなってからわざわざ準備することは何もない。戦になればいつ討ち死にするかもしれんから、心残りのないよう能を鑑賞しているのだ」と答えたらしい。
要するに、武士なら平素からいつでも戦ができるよう、準備しておくべきで、慌てて準備するような者は心がけが足りないと皮肉って見せたのです。
さすがは戦人と言うべき言葉ですが、ただでさえ守銭奴で評判悪いのに、気分悪くするようなことを言うなよ、と思ってしまうのは現代人の感覚でしょうか。
いずれにしろ左内の本質は戦人であって、金に対する執着も全ては戦のためでした。
事実、左内は戦のために全財産を気前よく放出しています。
きっと前田慶次と同じように、愛すべき戦馬鹿であったのだろうと作者は考えているのです。
―――とても困った人物がいます。
マゴットです。
このバランスブレイカーな怪獣は、基本的に常識外な逸話は出るが、刑事コロンボのカミさん、というかリナ・インバースの姉というか……話の片隅にだけ登場するはずの人物でした。
それがどういうわけか、いじりキャラとして主役級のポジションを奪い、読者の方々の温かい支持を受けています。
どうしてこうなった。
しかもマゴットという名は本当の名前ではない、などという伏線めいた設定までついてくる始末。
その結果割を食ったのがジルコで、ロードス島戦記のシーリスのような腕利きの姉御キャラの予定が、すっかりいじられキャラになり下がっています。
――――本当にどうしてこうなったのか。
さて、いきあたりばったりながら旅立ち編、学園編、サンフアン王国編と進んできた当作品ですが、いよいよ子爵領編突入とともにバルドは領主として軍事的脅威と相対することを強いられます。
そして続く××××編まで、書籍化の改稿と合わせて頑張って更新していくつもりです。
どうぞ今後ともご愛読を賜りますようお願い申し上げます。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。