トップページ文化・エンタメニュース一覧宮沢賢治の思いを体現 東北農民管弦楽団
ニュース詳細

宮沢賢治の思いを体現 東北農民管弦楽団
2月20日 8時55分

宮沢賢治の思いを体現 東北農民管弦楽団
農業関係者が農閑期だけ集まって演奏活動をするオーケストラが、東北地方にあります。宮沢賢治が掲げた「生活に根ざした芸術」に共感したメンバーが、秋から冬にかけて練習を重ね、年に1度、定期演奏会を開いています。
3回目となった今回の演奏会では難しい初演の曲にも挑戦。賢治のふるさと東北で、賢治の思いを実現させつつあります。

たった1人の呼びかけから

「東北農民管弦楽団」は3年前、宮沢賢治の没後80年に合わせて設立されました。
呼びかけたのは、青森県弘前市の野菜農家、白取克之さん(46)。賢治の生き方にひかれて農業の道に進み、そのかたわらチェロを弾いてきました。
「北海道農民管弦楽団」に参加した経験を踏まえ、賢治のふるさと東北でも、と1人で仲間集めを始めた白取さん。知り合いの農業関係者に「音楽をやっている人を知らないか」と聞いたり、東北のアマチュアオーケストラや大学の楽団に声をかけたりしてきたと言います。
こうして、農家をはじめ、JAや農業試験場の職員、農学部の大学生など、「農」に関わるさまざまな人たちが集まりました。
活動は農閑期に限られています。岩手県花巻市にあるお寺などで秋から冬にかけて練習を重ね、シーズンの最後に1度だけ、定期演奏会を開きます。
演奏会は、おととしは弘前市、去年は花巻市と場所を変えて開催。ことしは今月14日に仙台市の郊外にあるホールで開きました。
仙台公演はおよそ600人が来場し、会場は満席に。休憩時間のロビーでは団員たちが育てた米や野菜などの直売も行われ、訪れた人たちが争うように買い求めていました。
たった1人の呼びかけから

「農」と「賢治」にこだわって

農民楽団ならではの特徴は、演奏する曲にも見られます。「農」と「賢治」に関連する曲に絞っているのです。
仙台公演で演奏したのは、スッペの「詩人と農夫」より序曲。そして、銀河鉄道の夜に「新世界交響楽」という名前で登場するドボルザークの交響曲第9番「新世界より」。
さらに今回は、世界初演の曲にも挑戦しました。「星巡ノ夜」(ほしめぐりのよる)という作品で、平野一郎さんが賢治の作品を基に作曲しました。
この曲では、「左手のピアニスト」として知られる舘野泉さんと、バイオリニストのヤンネ舘野さんが親子でソリストとして参加。団員にとっては「楽譜を見た瞬間、青ざめた」(白取さん)という難曲でしたが、40分に及ぶ演奏を見事にこなし、大きな拍手を浴びていました。

粗野だけど熱い 独特の音

宮沢賢治は「農民芸術概論」などを著し、生活に根ざした芸術を理想に掲げました。白取さんは、楽団を結成したことで「芸術をもって灰色の労働を燃やせ」という賢治の思いを実感していると言います。
「冬にまた集まって演奏ができると思えるので、夏も張り合いがあります。冬の間だけ活動するのは、いいサイクルです」
また、農業に関連する分野の研究者なども参加していることから、練習や公演は貴重な情報交換の場にもなっているということです。
粗野だけど熱い 独特の音
これまで3回の定期演奏会を実現させた東北農民管弦楽団。今後3年かけて山形、秋田、福島でも公演を行い、まずは東北一巡を目指します。
ただ、団員が少ないパートもあり、現在はオーボエと、チェロ以外の弦楽器を募集しているということです。また、練習や演奏会の運営資金も十分とは言えず、後援会員の募集も行っています。
その後の目標は、先輩格の「北海道農民管弦楽団」とのジョイントコンサートと、ヨーロッパでの公演です。農村を愛したというドボルザークの国、チェコを訪ね、地元の農業関係者と共に演奏したいと白取さんは考えています。
「農民楽団には独特の音があると思っています。ただきれいなだけでなく、粗野だけど熱いというか、そういう音が自然と出てくるような感じがします。農や賢治に関連する曲に絞って、そのなかで楽しんでいく。楽しくないと続かないので」

関連ニュース

k10010415951000.html

関連ニュース[自動検索]

このページの先頭へ