寺地はるなさんの『ミナトホテルの裏庭には』を読みました。
私がはるなさんの作品を読むのは「背中に乗りな」「こぐまビル」「ビオレタ」に続き、4作品目でした。毎回、引き込まれてすぐに読み終わってしまうため、今回はちまちま読むつもりでいましたが、またもあっという間に読んでしまいました。
こちらが、あらすじです。
大通りから入った閑静な地に佇む通称「ミナトホテル」は、大正末期に建てられたキャラメルのような見た目の宿泊施設だ。館内には四季折々美しい花が飾られ、骨董家具が設えられた六つの客室は防音仕様。看板を出していないのに、人知れず「眠れない」「食べられない」お客が集い、時には長期で滞在する人たちもいるという。祖父の頼みで、ミナトホテルの裏庭の鍵を捜すことになった芯輔は、ひと癖あるオーナーの湊から失踪した愛猫捜索にホテルの受付まで頼まれてしまい――。誰かと繋がりあうことのよろこびを、やさしく温かく力強く紡ぎ出した、心に響く物語。
一言だけいうならば、素敵なお話でした。
誰もがどこか相手を気遣っているけれど、ちょっとずるいところがあるのは、「人」だからだと思いました。「人」として感情を持つ以上、優しいだけでいられるわけがないし、自分の身を守るために嘘もつき、相手を傷つける。それが、良い嘘が悪い嘘かはどうでもよくて、「人」ってそんなものだと思いました。
優しさは時として重くのしかかり、苦しくもなります。
自分の中にある感情を少しでも表に出せるように、この本ではとある互助会メンバーが「我儘書道」なるものをしています。率直に良いなって思いました。内にある思いだけだとモヤモヤとして、形がわからないけれど、言葉として記すことで自分でも気づかなかった自分を発見できるような気がするのです。
自分を知ることで、そこから周りの人が見えるようになることってあるんじゃないかなって私は思いました。
はるなさんが書かれるお話はいつも登場人物がちょっと変わっているのに、その辺にいそうな気もする魅力的な人が多くて、読んでいるとこの人好きだなっていう感情がいつも私の傍らに、丸まった猫のようにいるのが心地いいなぁって思っています。
『ミナトホテルの裏庭には』は「咲くのは花だけではない」と「手の中にある」の2部構成になっているのですが、私は「手の中にある」が母親という目線も相まって、ほんの少しだけ苦しくなりました。
それでも読後がほんわりあたたかくて、どこか面白いのがはるなさんの文章の魅力だと思っています。
読み終わってすぐ、私ははるなさんに興奮しながら感想を伝えてしまって、きっと何言ってんだかわからなかったんじゃないかなって思ったりもしましたが、はるなさんは懐が深いので、「これからも見切りパンを愛していきましょう!」とまとめて下さいました。見切りで半額になったりするパンを私はこれからも愛していきますし、はるなさんの書かれる作品も胸に抱いていこうと思っています。
ほんの少し優しい気持ちになりたい方や上司のころころ変わる発言にイライラされている方、お友達の愚痴を聞くのになんだか疲れ気味の方は『ミナトホテルの裏庭には』を読んでみたらいいと思います。
きっとなにか違う花が咲きますよ。
***
おまけ☆
はるなさんは面白い表現や、日常で私も感じたことのある些細なことを言語がするのが本当に上手なため、私はいちいちワオッ!と言いながら付箋貼って読んでました。
そんな箇所をいくつか挙げてみたいと思います。
不吉なカラフル
この表現がなんだか妙に好きです。私が「カラフル」という言葉を使うときはわりとポジティブなときのため、不吉なカラフルって!と思ったのです。
遮光器土偶のように目を腫らして
この表現も好きです。遮光器土偶って一般的に思い浮かぶ土偶が、これを比喩で使う場合、大抵、フォルムだと思っていたんですけど、遮光器の方を使ってきたか!って思いました。
「きれいな花が咲いている、って声に出して言うと、笑ったみたいな顔になるの。しかめ面しては、言えない言葉なの」
思わず、「きれいな花が咲いている」って声に出しました。
「昔から、猫に異常に猫に好かれるんです」
唯一の長所です、と照れくさそうに言う花岡に芯は唯一じゃないよ、と言ってあげたかったが、なにやら気恥ずかしくて言えなかった。
これは面白い表現ではなく、この箇所から思い出したことがあったのでドキッとしました。芯は花岡に「唯一じゃないよ」と言ってあげたかったとありますが、これは花岡にはもっと長所があるよって言ってあげたかったってことですよね。
昔の話ですが、友達の家の猫が他人にはあまり懐かないのに私のところに寄ってきたことがあるんです。そのとき「私ね、こどもと動物にはどういうわけか好かれるのよね」って言ったら、「いや、こどもと動物だけじゃないと思うよ」って言ってくれた男友達がいてドキッとしたのです。あまりにもさらっと言うものだから、なんだかこちらが恥ずかしくなりました。そんなことずいぶん忘れていましたが、これを読んで思い出したのです。
そんな感じに、まだまだ面白い表現やグッとくる箇所がありますので、ぜひ読んで探してみて下さい。
「などを」とか「などと」って言葉をなぜだか使いたくなりますよ☆
それからやっぱり「裏庭」というのが色々含んでいるような気がして良いなって思ったんです。
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