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TPPと著作権 文化の利用にも配慮を

 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の署名を受け、文化庁は著作権法改正案を今国会に提出する準備を進めている。法の原則に照らし、著作物の保護と利用のバランスを勘案して、文化の発展に寄与する制度にしなければならない。

     TPPは関税の撤廃や削減など貿易に関わる事項だけではない。投資や知的財産といった高度で包括的なルールを確立する内容もある。

     著作権を巡る大筋合意は、著作物の保護期間を延ばすなど、おおむね著作権を持つ人や団体に有利な内容と言える。アニメやゲームを海外に展開し、「クールジャパン戦略」を進める日本が知的財産を重視するのは当然だろう。ただ、権利保護が強すぎると創作を妨げる懸念がある。

     中でも影響が大きいと見られるのは、保護期間の延長と著作権侵害の摘発強化である。

     著作物の保護期間は著作者の死後50年から70年に延長される。主要国に70年保護が多いのは事実である。

     しかし、実際に死後50年を超えて活用される作品は限られる。権利者不明の著作物が増えることが予想され、利用の円滑化を工夫する必要がある。権利者の許諾に代わり、文化庁長官の裁定で使用する制度を使い勝手のいいものにしてもらいたい。

     著作権侵害については、権利者の告訴がなくても捜査当局が摘発できる「非親告罪」になる。日本では、有名漫画の人物や設定に似せたパロディー作品から新たな才能が生まれる例が多い。非親告罪化により創作の萎縮を心配する声は強かった。

     TPP交渉では非親告罪の範囲を絞る日本の主張が認められた。政府は著作権者の許可なく複製して販売する「海賊版」を対象にすることを検討している。法令にその旨を明記し、不安を取り除いてほしい。

     一方、法改正には含まれないが、日本にとって不利な保護期間の「戦時加算制度」を、交渉の中で撤廃できなかったのは残念だった。第二次大戦の連合国の著作権保護期間を、約10年間加算するものである。

     今回の70年への延長を考慮して、戦時加算の権利を行使しないよう、政府には解消を目指す民間の動きを支えてもらいたい。

     デジタル化を背景に、包括的に権利を制限する「フェアユース」の導入も一部で検討されている。批評、報道、学問などを目的とする公正な使用は著作権侵害にならないという米国型の規定である。

     何が合法で何が侵害行為かがあいまいで、侵害が広がる恐れがある。拙速に導入すべきではない。

     著作権法の改正は、権利者だけでなく、文化を楽しみ利用する人たちにも影響を及ぼす。政府は国民への周知に努めなければならない。

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