東京電力福島第一原発事故で故郷を離れて避難している人はいまも約10万人にのぼる。

 このうち、国が避難指示などを出した区域の外側にある福島県内の23市町村から別の場所に自主的に避難した人は、賠償対象区域の外側の人も含め、推計で約1万8千人いる。

 「子どもの健康が不安だから」「商売ができなくなった」

 逃げざるを得なかった事情は避難指示区域内の住民と総じて大きくは変わらない。だが、東電からの慰謝料は1人あたり12万~72万円と、区域内の住民と比べて大きな隔たりがある。

 一昨日、自主避難者の救済に道を開く司法判断が示された。

 福島県から京都市に自主避難した40代男性が、原発事故の影響で心身に不調をきたし、働けなくなったとして妻子4人とともに東電に損害賠償を求めた訴訟で、京都地裁は約3千万円を支払うよう東電に命じた。

 男性は子どもの被曝(ひばく)を恐れて避難を決意し、県外のホテルや賃貸住宅を転々とした。慣れない生活から不眠症やうつ病を発症した。地裁はこれらを原発事故が原因だと認めた。

 自主避難者への賠償は、国の原子力損害賠償紛争審査会(原陪審)が決めた指針に沿って支払われている。指針は、(1)生活費の増加分(2)精神的損害(3)避難や帰宅に要した費用――を基本に算定するというものだ。

 男性側にも指針に基づき東電から292万円が支払われたが、不十分だと訴えていた。

 判決で京都地裁は指針について「類型化が可能な損害項目や範囲を示したものに過ぎない」と指摘、事故と因果関係のある被害は事情に応じて賠償すべきだとの考え方を示した。賠償金額は個別事情に則して決定すべきで、一律な線引きは許されない、という賠償のあり方そのものを問うたといえる。

 福島の被災者への賠償は、国が東電に9兆円を援助し、東電がこの中から避難住民や企業に賠償金を払う仕組みだ。

 だが経営再建をめざす東電は、賠償の早めの打ち切りや枠内で極力抑えようとし、救済が住民本位になっていないという批判がある。

 避難者らが起こした集団訴訟は、全国21地裁・支部で続いている。原告の総数は約1万人にのぼり、相当数の人が正当な賠償を受けていないという不満を抱えている。

 東電は賠償対象者に誠実に向き合い、賠償対応のあり方を見直すべきだ。集団訴訟を扱う裁判所も、被害者の窮状を十分にくんだ判断をしてもらいたい。