Huluの2週間無料トライアルの利用による、映画鑑賞レビューの連載。
既に退会しているので、今回が最終回である。
第10回目はバイクレースのドキュメンタリー映画「クロース・トゥ・ザ・エッジ マン島TTライダー」
以前観たバイク映画「キリン POINT OF NO-RETURN!」は観る人を選ぶ作品だったが、今作はバイクに普段興味のない人でも「これは凄い」と思わせる見応えのある映画だ。
本作の舞台はマン島TTレース。イギリス王室属国のマン島で、毎年5月最終週から6月第1週にかけて開催の、100年以上の歴史を持つ伝統的バイクレース。島内を一周する一般道60.7kmを閉鎖して行われる。320Km以上に達するトップスピードが出る長い直線が複数ありながら、道幅は狭く、カーブの退避エリアは少なく生垣や石塀に囲まれたコースで、世界一危険な公道二輪レースとして知られる。
2011年のイギリス映画。監督リチャード・デ・アラグエス。
主人公ライダーはガイ・マーティン。ライバルに、ジョン・マクギネス、イアン・ハッチソン、コナー・カミンス他有力ライダー多数が登場。
上映時間1時間43分
あらすじ
舞台は、2010年のTT。
ハンサムで何かと話題性はあるものの未だTTでの優勝経験はない一匹狼のガイ・マーティンは、相変わらず話題を集めていた。
ユニークな一匹狼で、気まぐれな行動でいつもスポンサーやレース役員を怒らせていたが、才能に満ち溢れたガイは今年こそ優勝すると決心していた。
一方、無口で物静かだがレースになると本領発揮するイアン・ハッチンソンは、TTの歴史上初となる5つのレースでの勝利を成し遂げようとしていた。しかしこの年のTTには、歴史的快挙の他に2つの大事故と、1つの大きな悲劇が待ち構えていた。
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見所・感想
車載映像、空撮、通常撮影、何れのカメラであっても、圧倒的スピード感で観る者を圧倒する。道幅が狭く、両側に迫る石塀や生垣の間を、時にはジャンプしながら、バイクがすっ飛んでいく様には、ライダーでなくとも唖然となるだろう。
一方、最高速度200マイルを越えるスーパーバイクを操るライダーは、スーパーマンにでなく、バイクを降りれはそこらにいる兄ちゃんとあまり変らずに見える。主人公のガイは普段はトラックの整備士で喋りが面白いヤンキーっぽい兄ちゃんだし、ライバルのハッチソンがジムで行うトレーニングも、ハードではなく普通の重さのダンベルで淡々とこなしていたりする。
ハッチソンは今作で、前人未到の偉大な記録を残すのだが、全然そんな風には見えない地味な印象の人物だ。バイクにまたがった瞬間、人が変わってしまうのだろうか?
累計230名を超えるライダーが命を落とした危険なレースで、本作でも当たり前のように複数の大事故が起きて、死亡者も出てしまった。
主人公のガイは、命を亡くす事はこの種の仕事では当然、レースに集中する為に妻や子供を持ちたくないと言う。だが、亡くなったライダーは妻帯者で二人の子供もいた。レース後暫く経ってからの未亡人へのインタビューや子供たちの様子も写った。残酷なようであるが、彼ら家族は覚悟を決めてレースに臨んでいるのだろう。未亡人の淡々とした話しぶりと、残された幼い子供たちが、ミニモトクロスバイクで遊んでいる様は、ある意味驚きだが、彼らにとってはこれも自然なことなのだろうか?
観客の一人は「人生は1度きりなんだ、好きに生きればいい」と言い切る。
思えば、だんじり祭りや御柱祭だって、参加するものたちは負傷や命のリスクを負って伝統を守ろうとしている。祭の参加者は勿論、見守る家族や関係者たちも納得して覚悟しているなら、それも構わないという事か。
伝統と言う意味で、もう一つ面白い発見をした。
それは、ガイのチームのバイクのカラーリングだ。銀のメインカウルにイエローのストライプ、タンクとテールカウルは赤だ。マシンはホンダだが、このカラーリングは1960年代初期のホンダワークスレーサーのカラーリングと同じものだ。
1961年のRC162でホンダはマン島TT初優勝を飾る。
その時のマシンと同じカラーリングでガイは走っているのだ。
現在では、彼らの愛したノートンなどのイギリス製バイクは廃れ、殆どが日本製、僅かに独BMWや伊ドカティなどが加わるのみである。そうした現実があっても、歴史的カラーリングでレースを走らせるほど、深いリスペクトを受けている事を、日本人はもっと誇りに感じて良いと思う。