どうしても宇宙人を見つけたい中国。9,000人が強制退去、その理由は
「宇宙人探しのための望遠鏡作るから、引っ越してください」ある日突然こんな通達が来たら、どうでしょう?
中国で建設中の、完成すれば世界最大となる電波望遠鏡FAST。5年の施工期間を経て、ついに今年9月完成を迎えようとしています。
FASTは幅500メートルもあり、現・世界一のプエルトリコの電波望遠鏡と比べて倍近い大きさ。46万枚もの反射鏡が使われ、1000光年以上先にある電波信号をとらえることができます。この精度を以てすれば、地球外生命体を含め、宇宙の知られざる秘密を発見できると期待されており、中国の天文学界隈は大いに力を入れているというわけです。
ところが、何とも中国らしいというか、住民はその弊害を被ることになってしまいました。観測に適した静かな環境を確保するために、望遠鏡から5km以内に住んでいる人々は住居を移らなければならないと発表されたのです。強制移住の対象となる住民は実に9,000人以上。政府からは彼ら一人ひとりに12,000人民元(約20万円)が支払われるのですが、これは中国の平均年収の半分以下。住み慣れた土地を泣く泣く手放し新生活を築くことを考えると、あまりに少ない額です。
中国では、公共設備の建設の際、しょっちゅうこのような強制立ち退きを行っています。2010年に建設された三峡ダムは、住民30万人が立ち退きを余儀なくされました。また2008年の北京オリンピックの際は、市内の100万人以上が「家を追われる」ことに。これらはほんの一例で、1970年代以降、中国で公共設備建設のために立ち退きをさせられた人は累計4000万人にものぼります。
そして、電波望遠鏡がほかの公共設備とちょっと違うのは、その恩恵が一般の人々の生活に直結しないということ。高速道路ができれば交通渋滞が解消される、ダムができれば水力発電により電気の供給量が増える、など、そのメリットは普通の人にも大いにあります。でも宇宙人が見つかったからと言って、人々の生活が改善されるかというと…??? もちろん人類のこれまでの宇宙理解をひっくり返しかねない大発見になりますが、普段の生活には縁遠い話です。
それに、農業など土地を利用して生計を立てていた人はどうなるんでしょう? 建設現場である貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州は、中国南部の決して豊かとはいえないのどかな地域で、土地と生活が密着している人は多いのではないでしょうか。急に立ち退きを迫られても、「なんで宇宙人探すためにウチが引っ越さないといけないんだよ?!」と、納得できない人は少なくないはず。
中国の宇宙事業の発展は、中国のみならず天文学や天体物理学の分野全体に新たな光をもたらすことは確かです。最近では、今までで一番地球に近い惑星を発見。重力波の観測にも成功したりと、宇宙研究はどんどん進み、世界から注目を集めています。精度の高く大規模な望遠鏡が、これからの宇宙研究に役立つことは間違いありません。
だけど、そのために住み慣れた土地から離れないといけない人たちのことを考えると、中国政府はもうちょっと彼らへの対応を誠実に考えてほしいものです。
source: The Guardian、Time
Bryan Lufkin - Gizmodo US[原文]
(Aska T.)